青少年事情と教育を考える 168
次世代を育てることの大切さ

ナビゲーター:中田 孝誠

 東京オリンピックが閉幕して10日以上たちましたが、一つ取り上げたいことがあります。

 最終日の8月8日に行われた男子マラソンで、見事6位に入賞した大迫傑(すぐる)選手のことです。レースをテレビ観戦しながら感動したかたも多いと思います。

 大迫選手はゴール後のインタビューで、次に続く若手選手たちの名前を挙げながら、彼らが自分の6番という成績から先に進めるように手助けする活動、挑戦をしていきたいと語っていました。

 このニュースで、大迫選手が次世代を育成する「Sugar Elite」というプロジェクトをすでに始めていることを初めて知りました。
 今後、小・中学生向けに、夢をかなえるための考え方やトレーニングスキルを伝えるイベントを全国各地で行う計画もあるということです。

 どの競技でも、トップアスリートがオリンピックを区切りに現役を引退し、数年後に指導者として次の選手を育て、その選手がオリンピックに出場するということは珍しくありません。

 ただ、大迫選手は引退前から(先月末に東京オリンピックを最後に引退すると表明しましたが)次世代を育成する取り組みを始めていたということに、レースとはまた別の感動を覚えました。
 というのも、スポーツに限らず、現在の日本で最も重要な課題の一つが、この「次世代育成」だからです。

 例えば、学校教育は次世代育成の取り組みそのものです。
 その学校教育を担う教員の中で、ベビーブーム時代に多く採用された先生が退職の時期を迎えています。
 教員の年齢構成はベテランと若手が多く、中堅の先生が少ないため、ベテランの経験やスキルなどが若い先生に伝わりにくくなっているといわれています。若い世代の先生の育成が大切な課題になっているわけです。

 もう一つ象徴的なのは、科学研究の人材です。まさに日本が強みとしてきた分野です。
 近年は大学の博士課程に進む学生が減少し(2000年頃は約1万2千人が進学していましたが、近年は6千人前後です)、若い研究者が育ちにくくなっています。
 背景には、研究予算の問題や、博士課程を修了しても非正規雇用が半数に上るなど処遇が不安定な立場に置かれていることがあります。

 今後ノーベル賞級の研究が生まれなくなるだけでなく、技術立国としての日本の力も低下することになってしまいます。

 ちなみに、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智博士は、「研究の柱は人材育成」と語っています。研究チームの責任者としての自分の役割は、一人一人の能力を見極めてチームを組織すること。そして目標に向かって励ましながら、皆が一人前になるように育てることだというのです。

 大村研究室からは、120人近くの博士、30人の教授が誕生していて、私立大学ではそれだけの人材を育てた研究室はなかなかないそうです(JT生命誌研究館、季刊生命誌ジャーナル84号「新しい微生物創薬の世界を切り開く」)。
 どのような分野においても仕事の成果を上げることは大きな目標ですが、とりわけ価値があるのが次世代育成だということでしょう。