青少年事情と教育を考える 159
利他的行動が幸福度を高める

ナビゲーター:中田 孝誠

 新型コロナウイルスの影響で多くの人がストレスを抱え、児童虐待やDVなどの深刻な事態も増えているといわれます。

 一方で、他の人との人間関係や自分自身の生き方を見つめ直すという風潮も生まれています。それを象徴する言葉が「利他」(あるいは「利他主義」)です。

 フランスの著名な経済学者であるジャック・アタリ氏が、コロナのパンデミックを乗り越えるためのキーワードとして「利他主義」を挙げ、他者のために生きるという人間の本質に立ち返るように述べ、日本では昨年の特別定額給付金を一部でも寄付に当てたいという20代の若者が4割近くに上っています(いずれも伊藤亜紗編『「利他」とは何か』集英社新書より)。

 また、「他人の幸せのために行動すると幸せになれるのか?―利他的行動の幸福度への影響の実験による検証」というリポートを、ニッセイ基礎研究所の岩﨑敬子氏が今年3月に発表しています。

 このリポートによると、寄付のように他人に利益を与える行動をする人は、幸福度が高い傾向にあります。

 こうした研究は世界各国で行われていて、例えば、お金を渡されてそれを自分のために使った人と、他の人へのプレゼントか寄付に使った人では、他の人のために使った人の方が幸福度が高まりました。
 これは経済的に豊かな地域でも、そうでない地域でも変わりはありませんでした。

 驚くことに、こうした傾向は2歳未満の幼児にも同様に見られました。
 お菓子をもらった時と、そのお菓子を操り人形やぬいぐるいみに分けてあげた時を比べると、分けてあげた時のほうが幸せな表情を見せるというのです。

 何を幸福と感じるかは、民族性や伝統文化によっても違いがありますが、利他的行動については民族や文化を超えて普遍性があるようです。

 岩﨑氏は、幸福度の高い社会の構築に向けて、さらに検証が必要だと述べています。

 教育の分野でも、中学生向に「利他の精神」の教材が開発されるなど、利他は重要なテーマです。
 一連の研究は、まさに他者のために生きるのが人間の本質であると示唆するものではないでしょうか。