世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国などの外国資本から安保上重要な土地を守る

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、5月24日から30日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 WHO(世界保健機関)総会、台湾5年連続参加できず(24日)。核合意巡る米イラン協議 再開へ(25日)。米大統領、コロナ起源解明を指示(26日)。内閣委員会で「重要土地等調査・規制法案」可決(28日)。コロナ起源調査、WHOが再検討へ(28日)、などです。

 衆院内閣委員会は5月28日、安全保障上重要な土地の利用を規制する「重要土地等調査・規制法案」を自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党の賛成多数で可決しました。
 今後、衆院本会議採択、参議院での審議採択を経て今国会での成立を目指します。

 政府はこれまで、外国資本による安全保障上重要な土地の買収について実態調査を可能にする法整備を進めてきました。並行して、具体的事例の検証を行ってきたのです。

 昨年11月9日に開催された政府有識者会議の初会合で、これまで各地方議会などで問題視された事例が報告されました。

 いくつかの事例を挙げてみます。

2014年6月、北海道千歳市議会で航空自衛隊千歳基地から約3キロの隣接地約8ヘクタールが中国資本に買収されたことが問題になった。

2016年9月、台湾と接する沖縄県竹富町議会で中国系資本が宅地約2.4へタールを買収しようとし、これを防ぐため町による土地購入が検討された。

 などです。

 5月11日、法案は衆院本会議で趣旨説明と質疑が行われ審議入りしました。政府は22年度の法施行に合わせ、内閣府に司令塔となる担当部署を設ける方針を明らかにしています。

 本会議で小此木国家公安委員長が趣旨説明を行い、「安全保障環境が不確実性を増す中、防衛関係施設、海上保安庁の施設などの機能が阻害されることを防止する措置だ」と説明しました。

 政府による土地調査で、中国などの外国資本が関与した可能性がある買収や売買計画を、日本政府が少なくとも700件確認したことが5月13日、判明しました。

 防衛施設の周辺10キロ以内や国境離島などで、中国系資本などが買収に関わった可能性がある土地の把握に乗り出し、昨秋までに、中国系資本が関与した可能性がある安保上重要な土地買収などが全国で約80件に上ることが判明しました。その後、集中的に調査を進めて計700件あることを把握するに至ったのです。

 確認されたのは自衛隊や米軍の基地、海上保安庁や宇宙開発関連施設などに隣接した土地の買収やその計画です。対象地の全景が一望でき、日米の艦船や航空機の運用のほか、関係者らの動向が注目される恐れがある事例もありました。

 例えば神奈川県では、中国政府に関係がある可能性がある人物が米軍基地直近の土地を購入し、マンションを建設していたことが判明。この人物は基地を見渡せる高層建物を複数、所有していることも分かり、米国側も関心を寄せているといいます。

 また、米軍基地が見渡せる沖縄県の宿泊施設に、中国国営企業の関係者と見られる人物が買収を打診したことを把握、当初は「米系資本」を名乗っていたことが判明しました。

 さらに、鳥取県の自衛隊基地に隣接した用地でも、中国系のグループ企業が取得を目指したとされる事案が確認された―、などです。

 野党の中で、立憲民主、共産党は強く反対しています。不当な権利制限につながりかねない、という理由です。
 6月16日の国会会期末に向けて綱渡りの審議日程が続くことになりますが、米中新冷戦の最前線にある日本にとって一日も早く施行されるべき法律です。