世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中朝の思惑どおりに進んだ米韓首脳会談?

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、5月17日から23日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 ペロシ米下院議長「北京五輪出席自粛を」、各国首脳に呼び掛け(18日)。自民党、LGBT法案了承を先送り(20日)。イスラエルとハマスが停戦(21日)。米韓首脳ホワイトハウスで会談(21日)、などです。

 米韓首脳会談が5月21日、ホワイトハウスで行われました。会談後の共同声明のポイントを以下に記します。

◆米韓は「朝鮮半島の完全な非核化」を目指し、「北朝鮮との対話を模索していく」との方針を確認

◆日米韓3カ国の連携の重要性を認識しつつ、文在寅大統領が目指す南北対話についてバイデン大統領が支持を表明

◆国連の安全保障理事会決議の完全な履行を国際社会に求める

◆台湾海峡の平和と安定維持の重要性を強調する

 などです。

 会談全般を評価すれば、文在寅政権にとって「追い風」となり「成功だった」と言えるでしょう。もちろんバイデン政権側も「成功だった」と評価するでしょう。その理由を説明します。

 文政権の最優先事項は「南北対話」です。
 今回の会談で対北朝鮮問題では、北朝鮮との対話路線を提唱する韓国側の要望が広く反映された内容となっているのです。

 バイデン氏は記者会見で「私たちは外交を通じて北朝鮮に関与していく」と明言し、文氏は「南北関係を進展させ、米朝対話との好循環を実現させるため努力する」と述べています。

 既述のように共同声明でも、北朝鮮が拒否感を示してきた「北朝鮮の非核化」ではなく、南北双方を含む「朝鮮半島の非核化」という表現が用いられています。
 金正恩氏が対話に応じやすくするため、「北朝鮮非核化に専念」するとした従来の立場を変え、「朝鮮半島非核化に向けて努力」するとしたと見なければなりません。

 北朝鮮の人権問題に関しては、共同声明で「北朝鮮の人権状況の改善に努力」すると触れられていますが、共同記者会見で強調されることはありませんでした。

 今回の会談を経て、文氏が目指す南北対話について米政権からの支持を得たと言えるでしょう。

 一方、バイデン政権にとっての最優先事項は「重大な競争相手」と位置付ける中国への対抗策を強化することです。
 この点から見れば、共同声明に台湾問題が明記されたことは重要です。米韓首脳会談の共同声明に盛られたこと自体、異例と言わねばなりません。

 米国内には、対中戦略に韓国が十分協力しないことに対する不満の声も上がっていました。米国からすれば、これまでのわだかまりを解消して、対中シフトに向けた同盟関係の仕切り直しができたとも言えるのです。

 総合的に評価してみましょう。
 米政権はこれまでの対北強硬路線を転換しました。北朝鮮の思惑どおりになっています。これで非核化に向けた建設的変化が望めるのかは疑問です。
 今後中朝は、逆に強硬路線に転じるでしょう。バイデン政権の「弱腰」に付け込んで、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の「完成」に向けて走るでしょう。
 米韓首脳会談について、中朝共に目立った反応をしていませんが、思惑どおりに進んでいるからです。