夫婦愛を育む 158
自分を出したら世界が変わった

ナビゲーター:橘 幸世

 テレビをつけると、東京オリンピックを目指す一人の選手を紹介していました。ハンドボール日本代表キャプテン、土井レミイ杏利選手です。

 日本の選手も国際色豊かになってきたなどと思いながら、フランス人の父と日本人の母を持つ彼のこれまでの歩みを聞いていました。ハンドボールに興味があるわけではありませんが、引き込まれたのです。

▲土井レミイ杏利選手(ウィキペディアより)

 子供の時にハンドボールに出合い、たちまち魅了された彼は、トレーニングに励み続け、大学時代、目覚ましい活躍を重ねます。が、両膝を故障。プレー継続が困難となり、引退せざるを得なくなってしまいました。

 失意の中、フランスに語学留学します。
 数カ月たったある日、ジョギングに出ると何故か膝の痛みが消えていました。再びハンドボールができる、と熱情が再燃し、現地でプレーする場所を探します。

 プロの下部リーグに入団が認められ、やがてトップリーグに迎えられるまでになります。けれど今度は全く別の試練が彼を待っていました。

 日本人だからということなのか(外見は十分フランス人として通ると思いますが)、チームメートから仲間外れにされます。

 口も利いてくれない、パスも回ってこない、完全に孤立状態。精神的に追い詰められていきました。ふと気が付くと、包丁を持っている自分がいます。このままでは駄目だ、と彼が取った行動は、自分を出すことでした。

 日本の体育会系では上下関係が厳しく、下の者は自分の思いなど出さず上の言うことに絶対服従です。けれどフランスでは皆が対等で、自分を出さないと受け入れてもらえません。
 日本のスポーツ界で染みついていたチームメートとの接し方は通用しなかったのです。彼は文化の違いでつまずいていたのでした。

 意を決して、自分の思いを口にするようになると、徐々にチームメートに受け入れられていきます。
 実力を発揮できるようになり、オールスター戦に選抜されるまでになりました。

 膝の故障がなかったら、強豪国フランスのプロリーグでプレーすることなどなかった、だから「けがすらもギフト」と言う土井キャプテン。

 日仏のやり方の違いにうんぬん言うつもりはありませんが、彼が一皮むけて人間的に大きくなったことは間違いありません。
 膝をけがしたことで、実力面でも精神面でも飛躍したのです。

 スポーツの世界に限らず、人と信頼関係を築くには、やはり自分を出すことは不可欠かと思います(出し方や程度は考えなければなりませんが)。

 余談になりますが、彼はTikTokでも人気者だそうで、そこからハンドボールに興味を持ってくれる人が増えているそうです。
 単に友人を笑わせようと始めたTikTokでしたが、それがバズり、レミたんとして多くのフォロワーを獲得しています。


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