夫婦愛を育む 9
“聞きたいこと”しか聞かない

ナビゲーター:橘 幸世

 「“聞きたいこと”しか聞かない」あるいは「“聞きたいように”しか聞かない」。指導する立場の人との面談の後で、ある青年が言った言葉です。

 相手に対して、こうなってほしいという期待や願い(時に“枠”)を抱いていると、相手の話を聞きつつも、その中から自分の期待に沿った部分だけ拾って聞いている(そして、そこから会話を進めていく)、――そんな聞き方をしてしまうことはないでしょうか?
 相手の話に耳を傾けているようで、実は、次に自分が何を言おうか考えながら聞いていたり…。
 当然その青年は、「自分のことを受け止めようとしていない」と感じ、いったんは開きかけた心をまた閉じてしまいました。

 私自身にも覚えがあります。自分の信じる道や価値観を伝えたいと思う相手の言葉を、額面通り受け止めずに、自分の願いに合ったように解釈してしまったのです。(随分後になって、額面通りの意味だったと気付きました)
 自分の期待通りの解釈は、相手に過度の期待を負わせかねません。こうしたやりとりは、往々にして親子間でも起こりがちなのではないでしょうか。
 もちろん、全てを額面通りに受け止めるのが正解というわけではありません。自分のことを認めてほしくて、反発する、文句を言う、相手を責める、という行動に出てしまうこともままあります。

 逆に、相手に負の感情を抱いていると、相手の言動から、その負の感情を裏付けするような部分だけ拾いがちです。例えば、妻が夫に対して、仕事ばかりで家族を顧みない、という不満を抱いていると、そういう色眼鏡で見るので、夫が休日に付き合いのゴルフに出掛けると言えば、「家族ほったらかしで、自分だけゴルフを楽しんで」と思います。上司の誘いなので断れない、ゴルフと言っても気を使って楽しむ余裕などない、本当は自分ものんびりしたい、などの夫の本音、ましてや家族を養うために仕事を頑張っている点は、色眼鏡のせいで見えづらくなります。

 人の心は見えないので、上手に(正しく)聞くことは本当に難しいですが、まずは相手への期待や負の評価などを横に置いて、そのまま受け止めることに努めていけたらなと思います。