世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

対日改善へ、「3・1」文在寅大統領演説

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は3月1日から7日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 「3・1独立運動」記念日で文在寅大統領演説(1日)。尹錫悦検事総長、辞意を表明(4日)。「中国が唯一の競争相手」、バイデン政権が安保戦略の指針公表(4日)。中国・全国人民代表大会(全人代)開幕(5日)。緊急事態宣言再延長(首都圏の1都3県)、などです。

 韓国における3月1日は、日本統治下の1919年に起きた抗日独立運動「3・1運動」の記念日です。そこで行われる大統領演説は日韓関係の現状と今後を判断する重要演説とされてきました。

 今年の文大統領の演説は対日関係改善に向けて、踏み込んだ異例の内容を含んでいました。
 これまで見られなかった内容として文氏は、「われわれが乗り越えねばならない唯一の障害は、過去と未来の問題を分離できないことで、(これが)未来の発展に支障をもたらしている」と指摘し、「過去の問題は過去の問題として解決し、未来志向的な発展に一層、注力せねばならない」と訴えたのです。

 そして、「韓国政府はいつでも日本と向き合い対話する準備ができている。相手の立場に立ち、膝を交えれば過去の問題もいくらでも賢明に解決できると確信している」と明言しました。

 文政権の変化は1月の記者会見においても確認することができました。
 文氏は、2015年の日韓慰安婦合意を政府間の公式合意だと認め、原告を説得する考えを示していたのです。

 さらに文氏は今回の演説で、「両国の協力は韓米日3カ国協力にも役立つ」と3カ国協力の重要性を訴えました。これまでは、北朝鮮や中国への配慮から日米韓の結束を強調することに慎重だったのです。

 この日韓関係改善に向けた姿勢について、日米韓の連携強化を図るバイデン米政権から日韓の関係改善を迫られている、との指摘もありますが、それ以上に、文政権の最優先政策は南北融和・統一への道を開くことだという点を重視すべきです。

 文政権の任期は来年5月までです。この間に「朝鮮戦争の終戦宣言」や「金正恩総書記のソウル訪問」を実現する可能性を探り、実現への道を開きたいとの思いが強く出ています。

 韓国歴代大統領は5年の任期が近づくと反日に転じる事例が目立ちますが、文氏は逆に、最後に日韓関係を立て直した大統領としてバトンをつないでほしいものです。

 一方、文政権に生じているこの変化の兆しを日本も大切にしたいものです。
 日本の対韓輸出管理の厳格化から1年半以上。韓国では半導体だけでなく関連素材の自国産品が定着し始めました。
 今夏の東京五輪を、文氏は、日韓、南北、日朝、米朝間の対話の機会になり得るとして、協力の意向を示しています。

 韓国側に前向きな動きがあれば、その呼び掛けを日本も好機とすべきでしょう。