世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

習政権、香港民主派にとどめ刺す

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は3月8日から14日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 在韓米軍駐留経費、韓国側の負担増で合意(8日)。海警法で「強軍思想」実現~全人代常務委員長発言(8日)。米アーカンソー州、中絶ほぼ全面禁止に(9日)。中国国防費増~岸防衛相が強い懸念(9日)。中国全人代、選挙制度変更で香港民主派を一掃か(11日)。日米豪印初の首脳会合(12日)、などです。

 中国の全国人民代表大会(全人代)が3月5日から11日まで開催されました。
 全人代は日本の通常国会に当たりますが、政府が提示することの承認手続きの場と言ってもいいでしょう。特に注目されたのは香港の選挙制度の改変です。改変を承認する採択を行って今年の全人代は閉幕しました。

 具体的内容は今後、全人代常務委員会で検討されますが、大枠はすでに決まっているのです。改変の目的は行政長官選挙や立法会(議会)選挙から民主派の候補者を一掃することができるようにすることです。「候補者資格審査委員会」の新設がその眼目です。

 習近平主席は「愛国者による香港統治」を明言しています。よって候補者の資格とは愛国者ということ、すなわち中国共産党を支持するものということになります。結果として親中派が圧倒的に優位、というより「一色」となる立法会となり、議案を承認するだけの全人代のような議事議会機関となるのです。

 香港選挙制度の改変は、香港民主派にとどめを刺すもの、中国の国際公約である「一国二制度」の原則を踏みにじるものです。
 昨年、香港市民は国家安全維持法の施行によって言論とデモの自由を奪われました。そして今年、選挙を通じて民意を政治に反映させる望みも絶たれたことになるのです。

▲香港

 香港の選挙において、行政長官選挙は親中派が多数を占める選挙委員会(1200人の委員で構成されている)による「間接選挙」となっています。そして立法会の定数の約半数も間接選挙です。
 しかし香港基本法には、行政長官や立法会の全議員を「最終的に普通選挙で選出する」(第45条)と明記されているのです。香港の民主派は1人1票の直接選挙の実現を目指してきました。2014年の雨傘運動や2019年の大規模デモの際も、民主派や市民は「普通選挙」の実現を政府に要求したのです。

 欧米諸国は批判を強めています。
 加藤勝信官房長官も「看過できない」と批判しました。すると在日中国大使館は「中国内政への乱暴な干渉であり、強烈な不満と断固反対を表明する」とのコメントを公表したのです。
 米国のブリンケン国務長官は11日、「全人代の決定は、中英共同声明が約束した香港人による自治への直接的な攻撃だ」と非難。さらに「香港への締め付けを内政問題と主張するのは、少なくとも2047年まで香港の自治や自由を維持するという中国の公約を無視している」と指摘したのです。

 習政権による香港選挙法改変は、香港基本法を破り捨てて国際公約を踏みにじったものであり、「看過できない」暴挙なのです。北京冬季五輪開催「資格審査」において落第なのです。