世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

習政権、「無理な」脱貧困勝利宣言

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は2月22日から28日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 イラン、IAEA(国際原子力機関)抜き打ち査察を停止(23日)。中国船の日本領海侵入を米が非難(23日)。習氏、脱貧困勝利を宣言(25日)。米、北京五輪への参加「未決定」(25日)。政府、尖閣上陸阻止で「危害射撃」可能~中国公船を念頭に見解(25日)、米軍がシリアで空爆“大統領の指示”(26日)。香港、民主派議員ら47人を起訴(28日)、などです。

 習近平国家主席が2月25日、北京・人民大会堂で開かれた貧困脱却活動に関する表彰大会で演説しました。
 大会には李克強首相など指導部が勢ぞろいし、中国国営テレビ(CCTV)が中継するという「国内向け」一大イベントという構えでした。

 習氏は演説で、中国の農村部の貧困人口を期限どおりに解消したと昨年発表したことについて触れながら、さらに「中国共産党創設100年という節目を迎える重要な時期に、わが国の貧困対策は全面的な勝利を収めた」と改めて「勝利」を宣言したのです。

 昨年12月に開いた党最高指導部会議、政治局常務委員会で脱貧困の「達成」をすでに宣言していましたので、今回、さらに念を押したかたちです。

 中国の脱貧困の達成基準は年収4000元(約6万円)以上というものですが、「達成」「勝利」宣言は、いかにも無理があると言わなければなりません。

 昨年5月の全人代(全国人民代表大会)で、李克強首相が「月収1000元(約1万6000円)の人がまだ6億人」と発言して内外に衝撃が走りました。指導部内には意見の隔たりがあるのは確実なのです。

 このたびの習氏演説の狙いと背景を説明します。
 何よりも党内の引き締めです。中国は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、2020年の実質国内総生産を2010年比で倍増させる長期目標を達成できませんでした。

 中国では主要目標の未達成は極めて異例なことです。それゆえ習氏は、3月5日開幕の全人代の前に、もう一つの長期目標だった「貧困脱却」の成果を繰り返し強調して党内の引き締めを図ったのです。

 そして今年7月1日は、共産党創立100周年を迎えます。その時に「小康(ややゆとりのある)社会の全面的な実現」を宣言する構えですが、脱貧困はその前提条件となっており、いずれにせよ「成果」を急いだ面は否めません。