世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

北京冬季五輪開催地変更の声上がる

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は2月15日から21日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 北京冬季五輪について米で開催地変更要求の声(16日)。米国務省、中国海警法に懸念表明(19日)。米が「パリ協定」に復帰(19日)。台湾防空識別圏に中国軍11機入る(20日)、などです。

 米国のポンペオ前国務長官が2月16日、FOXニュースの番組に出演し、来年2月開催予定の北京冬季五輪に関して、中国共産党体制が新疆ウイグル自治区などの少数民族の「ジェノサイド(大量虐殺)」に関与しているとして開催地を変更すべきだと訴え、大きな反響を呼んでいます。

 IOC(国際オリンピック委員会)倫理規定の立場に立てば当然の主張と言えます。
 倫理規定の根本原則・第一条の中に次のように記されています。

 「人権保護の国際条約がオリンピック競技大会での活動に適用される限り、それを尊重すること。特に以下のことを保証すること」とし、人間の尊厳を尊重することとして、「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会のルーツ、財産、出自、その他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も拒否すること」とあります。

 ポンペオ氏はまた、ヒトラー率いるナチス・ドイツが1936年に主催したベルリン五輪を引き合いに出し、「中国にプロパガンダ(政治宣伝)上の勝利を許してはならない」などと述べ、国際舞台での活躍を目指す選手たちのことを考慮し「別の場所で開催すべきだ」と呼び掛けたのです。

 共和党のウォルツ下院議員(フロリダ州選出)は15日、IOCが北京に代わる開催地を見つけられなかった場合、米国オリンピック、パラリンピック委員会が北京五輪をボイコットするよう求める決議案を下院に提出しています。

 決議案では、ウイグル自治区の人権弾圧に加えて中国当局による香港での民主派弾圧や新型コロナ感染の情報隠蔽なども非難し、他の参加国にもボイコットを求め、可決された場合はブリンケン国務長官に決議を各国に送付するよう要請しているのです。

 ポンペオ氏は1月19日、トランプ政権における国務長官としての最終業務として、中国政府のウイグル族政策について人道に対する罪に当たると認定し、非難する声明を発表しました。さらに一連の政策は漢民族に同化させ民族として消滅させようとするもの、すなわちジェノサイドに当たると糾弾したのです。

 ポンペオ氏は、強制収容などで100万人以上の自由を奪ったほか、強制労働を課したり信教の自由を制限したりするなどしたと指摘しました。
 ブリンケン国務長官も、1月19日、上院における承認のための公聴会でジェノサイドとの認定に同意すると回答しています。

 イギリス、フランス、カナダの首脳も同様の見解を述べており、新たな人権・中国包囲網がつくられつつあります。
 日本政府も何らかの判断と行動が求められるでしょう。