2026.09.11 22:00

幸福学と宗教的な生き方 9
幸福学から見る「高額献金」の意味
魚谷 俊輔
本シリーズでは、日本における幸福学の第一人者である前野隆司(まえの・たかし)氏が著書『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書、2013年)で述べていることを理論的な枠組みとして用いています。
このシリーズでは、「人が幸福になるにはどうすればよいのか?」という問いを学問的に掘り下げ、それが宗教的な生き方とどのように関わっているのかを探求している。
前々回では、「人は所得などの特定の価値を得ることが必ずしも幸福に直結しないにもかかわらず、それらを過大評価してしまう傾向がある」ことを説明し、それを「フォーカシング・イリュージョン」と呼ぶことを紹介した。
さらに前回では、人間の幸福に関して、「地位財・非地位財」というもう一つの視点を紹介した。
地位財とは、目に見えて他人と比較できるような財のことで、社会的地位、物的財などを指す。
一方で、非地位財とは目に見えないより本質的な財のことで、健康、自主性、社会への帰属意識、良質な環境、自由、愛情などを指す。
このことから、宗教を信じる人がなぜ高額の献金をするのか、その動機を解明したい。
多くの資産を持つ人は、住居や食事や身の安全といった最低限の欲求が危険にさらされることはない。そこでその人の幸福度は財産という「地位財」によってはそれ以上高まることはないので、より高い次元の幸福を求めて、「非地位財」を探し求めるようになる。
一般に宗教の役割は、目に見えて他人と比較できるような地位財に対する執着を捨てさせ、目に見えないより本質的な非地位財によって得られる幸福に焦点を当てさせることによって、人間に永続的な幸福をもたらすものであるといえる。
一部の宗教における現世否定や物欲の否定は、地位財に対する執着を捨てろということである。
人は宗教的な価値観と出合うことを通して、より本質的で永続的な価値観に目覚め、地位財に対する執着を捨てて献金やお布施をするようになるのである。
前野隆司氏の著作の中でも、宗教的信仰を持っている人はより幸福度が上がるという調査結果を報告している。
それは宗教が人の人生観を地位財中心から非地位財中心にシフトさせる役割を果たすので、永続的な幸福度が増すからであろう。
こう考えると、宗教団体に対して高額な献金をすることによって得られる幸福感は、幸福学の見地からすれば、十分に対価性があるという結論になる。
ところが、こうした主観的な幸福感は世俗的で客観的な視点からは過小評価される傾向にあるので、財産はあっても心に寂しさを抱えた資産家が信仰を持つようになる動機の部分を正当に評価することができず、騙(だま)されたとか脅かされたのだと推論してしまう。
家庭連合に対する「高額献金」が不当な搾取であり、社会悪のようにいわれてきたのは、まさにこのような「フォーカシング・イリュージョン」に基づくものであるといえる。