青少年事情と教育を考える 5
待機児童問題の難しさ

ナビゲーター:中田 孝誠

 待機児童の増加が問題になって久しくなります。最近も安倍首相が所信表明演説で待機児童解消を強調したのをはじめ、女性の労働力への期待もあって、大きな政策課題になっています。
 厚生労働省のまとめによると、昨年4月時点の待機児童数は26081人。保育所の定員は274万人で、前の年より10万人分増えています。この4年間では、認可保育所や認定子ども園など42万人余り増えました。しかし、単に受け入れの枠を増やせば解消するという簡単な問題ではありません。


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 一番の課題は保育士の不足です。乳幼児の保育には多くの保育士が必要です(保育士配置の国の基準では、1人の保育士が担当できるのは0歳児では3人、1・2歳児であれば6人)。人手不足を補うため保育士の配置条件が緩和されてきていますが、そうなると保育の質の低下につながりかねません。多くの保護者が心配しているのがこの点です。
 また、都心では保育園を建設する場所がなかなか見つからないという事情があります。最近は、鉄道の高架下などにも保育園が開園されています。
 しかも、たとえ土地を確保したとしても、近隣住民から「子供の声がうるさい」という理由で建設に反対されるケースもあります。「子供は国の宝」という意識が社会から薄れているようにも思えます。

 それから、子供が0歳の時は育児休暇を取って家庭で育てようとする母親は多いのですが、1歳になった時点で入園を申し込んでも難しいため、少しでも入りやすくなるよう(働いているという実績を作るように)、やむなく育児休暇を早めに切り上げて0歳から預ける親もいます。
 そしてもう一つ。保育を拡大するとその分、預けたいと思う親が増えるということもあります。これはある現役の園長さんの話ですが、便利な保育サービスを広げるほど親の意識も「家で育てるより預けたほうが得」ということになりやすいそうです。そうなると単に“預かるサービス”になってしまいます。
 もちろん待機児童問題の当事者は親と子供です。子供のためにどういう環境が必要なのか、子供の気持ちはどうなのかを第一に考える待機児童対策であるべきだと思います。