夫婦愛を育む 142
初めて吐いた弱音

ナビゲーター:橘 幸世

 去る日曜の夕方、珍しく頭痛がして横になりました。
 前日のカレーが残っているので夕食の心配はありません。テレビをつけるとNHKで「青年の主張2020」という番組が始まるところでした。

 コロナ禍でさまざまな壁に当たった若者8人が、自分の体験を率直に語りました。
 厳しい中でも前向きに生きる彼らの姿勢は感動的で、涙を誘われました。中でも、司会者はじめ出演者の、そして私の涙を一番誘ったのが「生まれて初めて弱音を吐きます」という23歳の元力士のメッセージでした。

 恵まれた体格で、「強いね」と褒められたのがうれしくて、彼は強くあることだけを是とし、体を鍛えてきました。地元では一度も負けたことがなく、皆の期待を背負って相撲の世界に入ります。

 それまで「自分が一番強い」と思ってきた彼でしたが、飛び込んだ世界では自分よりも強い人を大勢目の当たりにします。力士として結果が出ず、故郷に錦を飾れないまま歳月が過ぎ、今年コロナ禍で地方巡業などがなくなります。

 相撲以外何も知らない彼は、先の長い人生を考え、区切りをつけて故郷に戻ります。とは言え、何をしようという考えもなく家にこもる日々。かつての恩師が気にかけて連絡してきます。

 関取になれずやめて帰ってきたことについて「恥ずかしいか?」と尋ねられると、彼は正直に「恥ずかしいです」と答えました。続いて恩師の「でも、帰ってきてくれてうれしいよ」という言葉に、彼の心に変化が起こります。そして、コンビニで働き始めたのでした。

 「強い自分」、そのイメージに沿って、彼は強い部分しか見せずに生きてきました。23年間、一度も弱音を吐いたことがなかったと言います。そんな彼がカメラの前で、親に向かって、家族、友人、元親方や同僚に向かって、弟子時代のつらかったことを言いました。

 「自分は強がっていた」「本当は、勝てなくてつらかった。集団生活もきつかった」等々、湧き上がるものをこらえながら吐き出します。
 どれほどの勇気が要ったでしょうか。誰かが「つらい時につらいと言える強さ」と言っていました。

 そして、その叫びに多くの人が涙しました。おそらく、各人が味わってきたつらい思いや体験が共鳴したのでしょう。胸の内にしまっていたものが揺さぶられたのかもしれません。
 「ああ、誰もがしんどいところを通過してきているんだなぁ」と改めて思いました。

 彼のみならず、一般的に男性は、簡単に弱音を吐きませんし、弱いところを見せません。もし夫など身近な男性が弱音を吐いてきたら、どうしましょう。

 まずは「余程の事」と受け止めましょう。じっくりと聞いて、共感を心掛けます。「大したことないじゃない。もっと大変な人もいる」などと言うのはNGです。「こんなにもろい人だったのか」と落胆する必要もありません。それまで見てきた強さも、今見せている弱さも、どちらも彼の一部です。

 信頼していればこそ勇気を出して打ち明けたのですから、「話してよかった」と彼が思えるよう努めましょう。解決を急がず(助言などせず)、ただじっと彼の気持ちを受け止め、励ますだけでよい場合が多いです。
 弱音も含めて本音を言える関係を大切に育みましょう。


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