夫婦愛を育む 141
居場所を求めて

ナビゲーター:橘 幸世

 「あ~っ、私今日はもうダメ! ショックが強すぎて何も手につかない」
 高校一年生の女の子が訴えます。

 「先生~」と、心乱れた理由のさわりだけ話してきますが、周りに他の生徒もいますし、あと数分で授業が始まるスケジュールです。他の生徒を放っておくわけにいきませんので、彼女を連れて教室へ。

 気心知れた友人に「あ~、○○を信じて話したのに、バラされた~、裏切られた~」と自分の感情を出し続ける彼女。なだめながらの授業開始です。

 学校の先生ならば厳しくいさめるところでしょうが、塾では叱ることはあまり勧められていません。
 「学校でこういう気持ちになったら、どうしているのだろうか? 我慢して黙って座れているのだろうか?」と内心思いつつ、問題を皆で解いていきます。
 通常ならば正解して良いところを見せたい彼女ですが、当てられても「ああ、分からない。今日は頭が働かない~」といった調子です。

 授業をしっかり進めながら、時折「分かる。その気持ち。私も散々経験してきた。ちゃんといいようになるから」などの言葉を入れると、他の生徒たちも関心を持って(もしかして英語の説明より?)聞いています。終わりごろには彼女も少し落ち着いて、授業のポイントもそれなりに入ったようです。

 こんな英語の授業は初めての経験でしたが、彼女のように心が飢えている子供たちを、関わる時間が短い中にも見かけます。

 授業が終わって、迎えに来た親が車の中で待っていても、話を聞いてくれる先生相手に延々とおしゃべりを続ける中学生や、塾が自分の居場所という高校生。
 ある男子生徒を中学から見てきた先生は、彼は高校生になって随分落ち着いてきたと感慨深げに言っていました。

 多感な思春期の彼らは、さまざまな初めての経験をし、初めての痛みを味わっていくことでしょう。傷つきやすい世代なればこそ、その傷を癒やしてくれる誰かがいれば、何であれ心落ち着ける環境があれば、いいなと思います。

 居心地の良い家庭、居心地の良い教室、居心地の良い職場、居心地の良い教会等々、互いの存在を受け止め合える中で生きていけたら、私たちは自然と活力が湧いてくるでしょう。とりわけ今はコロナ禍で、リラックスできる所はより限られているかもしれません。

 婦人向け講座で、「夫が帰りたくなる家庭をつくりましょう」とお話ししていますが、愛し合って結婚した男女でも、一緒にいることが楽しい、うれしい、心地よいと感じられることは、家庭を守る上で、愛を語ることに負けないくらい大切かもしれません。

 愛という名の下に、チェックが入ったり干渉し過ぎたり無意識下で要求していたら、居心地が悪くなります。居心地の悪い所には、人は寄り付かなくなりますね。

 自分が関わっている所が、居心地が良い場所かそうでないか、より良くするには何ができるか、気を付けていきたいと思います。

 まずはやはり、負の言葉を控えて、笑顔を心掛けることでしょうか。


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