夫婦愛を育む 137
「もう自分を許してあげて!」

ナビゲーター:橘 幸世

 現在放送中のNHK朝ドラ「エール」の物語が戦後に入りました。そこに描かれている再生ストーリーに力をもらっているのは、私だけではないでしょう。

 1016日放送分、焼け落ちた自宅跡でヒロインの母・光子(薬師丸ひろ子さん)が歌った讃美歌「うるわしの白百合」が大きな感動を呼びました。
 かく言う私も、胸を打たれ涙した一人です。ネットでも話題となっていて、撮影の裏話が紹介されていました。

 もともとの台本では、光子が「戦争のこんちくしょう! こんちくしょう!」とうなりながら地面をたたくシーンでしたが、薬師丸さんの発案で「うるわしの白百合」を歌うことになったそうです。

 戦争への怒りをぶつけるだけでは悲しいシーンで終わってしまいますが、悲しみから立ち上がらんとする意思や力強さがそこにはありました。戦争によって奪われたものが映像で流れる中、イエスのよみがえりをたたえたこの歌は、これで終わらない、「復活」する、というメッセージを伝えていました。

 収録時、薬師丸さんが歌い終わった後、スタジオ全体が言葉にできない感動に包まれていたそうです。
 現場にいたスタッフたちも目を赤くしていたとのこと。15分という放送時間の3分を使って彼女の独唱をノーカットで流したのは異例のようですが、大正解だったと思います(これを書いている私も余韻に浸りながらこの曲を口ずさむ日々です)。

 このシーンを序章とするかのように、登場人物たち一人一人の、ゼロから、あるいはマイナスからの再出発が描かれていきます。軸となる主人公の心の変化は、とても深いものがありました。

 主人公は、自分が作曲した歌に多くの若者が鼓舞され、戦地に向かい命を落としたことに自分を責め、曲が書けなくなります。
 そんな状態が2年近く続きますが、妻は夫が立ち直ることを信じて、再起を待ちます(支え手のお手本のような女性です)。

 やがて、苦しみ続ける夫に「もう自分を許してあげて!」と妻は訴えます。
 彼は「いいのか?」と問い返し、二人で泣きます。彼は再び曲が書けるようになりました。

 それでも、自責の念はそうあっさり消えてくれるものではありません。次の曲に取り組もうとする時、「贖罪(しょくざい)のためなら書いてほしくない」と言われ、自分のことばかりに囚(とら)われていたことに気付きます。
 贖罪のためではなく、人を励ますために曲を書く、そう転換して、彼は前に進んでいくことができました。

 そのシーンを見て思い出したことがあります。容易には消化できない悲しい事がわが身に起きた時、再び立ち上がるきっかけとなったのは、ある事情を聞いて、自分が行ってなんとかしなければと思ったことでした。
 気持ちは未整理のままでしたが、動き出したのです。そういう中でやがて、傷が癒えていきました。

 人間、いろいろな思いを抱えながら、でも誰かのために前に進んで行けば、道は見えてくるものなのかもしれません。


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