世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

チェコの上院議長が「私は台湾人」と演説

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は8月30日から9月6日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 内モンゴル自治区で異例のデモ、中国語教育に抗議(831日)。林鄭月娥香港行政長官、「香港は三権分立ではない」(91日)。チェコの議長、立法院で講演 「私は台湾人」(1日)。菅義偉官房長官、自民党総裁選立候補表明(2日)、などです。

 東欧のチェコ、ビストルチル上院議長が830日、およそ90人を率いて台湾に到着しました。チェコと台湾には外交関係はありません。

 ビストルチル氏は91日、立法院(国会に相当)で演説しました。

 冒頭、今回の台湾訪問はチェコ上院で96%の支持を受けたと説明し、「世界各地の議会は、民主主義の原則と自由の精神を守らなければならない」と強調したのです。

 「国会で作る法律は人々を守るための者であり、人々の自由を制限するものであってはならない」とも語り、ケネディ元米大統領が東西冷戦中の1963年、共産主義体制の脅威の最前線にあった西ベルリンで「私はベルリン市民」と支持する演説を行ったことに言及しました。

 そして、「私も自分のかたちで台湾への支持を表現したい」として、中国語で「私は台湾人」と訴えたのです。
 この言葉に立法委員らは総立ちになり、議場では大きな拍手が約1分間続きました。

 ビストルチル氏訪台の背景には、チェコで広がる中国への反発があります。
 中国は巨大経済圏構想「一帯一路」で中東欧諸国を取り込み、それをてこに欧州との関係強化を図る戦略を描いています。
 チェコのゼマン大統領は中国と欧州連合のパイプ役を自任し、訪中を重ね経済協力の旗を振ってきました。しかし投資事業が予定どおり進まないのです。チェコ国内には中国への失望が拡大しました。

 決定打となったのは、中国の「脅し」だったといいます。
 今回の訪台は、元々1月に病死したクベラ前上院議長が計画していました。計画を知った中国側はチェコ大統領府に書簡を送り、中国が複数のチェコの大企業にとっての「国外最大の市場だ」と指摘し、「訪問は誰のためにもならない」と、中国からの排除を示唆したのです。クベラ氏は死の直前にこの書簡を読んだとされています。

 また、ポンペオ国務長官が8月にチェコを訪問し、上院で「(中国は)われわれのような自由な社会を恐れている」と述べて訪台を後押ししたのです。

 中国の王毅外相は831日、訪問先のドイツから「14億人の人民を敵に回すものだ。必ず大きな代価を払わせる」との談話を発表し、何らかの報復の可能性を示唆しました。

 王毅氏は対欧関係強化のための欧州5カ国を歴訪中でした。825日~91日、イタリア、オランダ、ノルウェー、フランス、ドイツを訪問しました。

 91日は、最後の訪問国ドイツ滞在中でした。同日、王毅氏はドイツのマース外相と共にベルリンで50分間の記者会見に臨みました。
 マース氏は、チェコの外相と電話会談したことを明かにし、欧州に脅しは通じないと強調し、「われわれ欧州人は緊密に協力して行動する。われわれは国際的なパートナーに敬意を払い、全く同じことをパートナーに期待する」と明言したのです。

 孤立回避の中国の言動がかえって国際的批判を呼び起こす、悪循環に陥っています。
 習近平路線の限界が露呈しつつあります。