世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

安倍晋三首相、辞任表明

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は8月24日から30日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 共和党、米大統領候補にトランプ氏正式指名(24日)。日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)延長へ(25日)。中国、南シナ海へ弾道ミサイル2発発射(26日)。安倍晋三首相、辞任の意向を表明(28日)。李洛淵前首相が韓国与党「共に民主党」の代表に(29日)、などです。

 安倍首相は8月28日午後5時、記者会見に臨み、持病の潰瘍性大腸炎の悪化を理由に辞任する意向を固めたことを明らかにしました。
 安倍氏の持病は10代からのもので、第一次政権をわずか1年間で閉じざるを得なくなったのもそのためでした。

 幸いにも、有効な薬の使用が可能となって体力が完全に回復し、2012年に再び自由民主党総裁に選任され、首相として第二次安倍政権を発足させたのです。その後の活躍は目覚ましく、卓越した政治指導者としての実績を残してきたのです。

 これまで、経済政策「アベノミクス」の推進、消費税10%への引き上げを実現、集団的自衛権の限定行使を容認する安全保障法制を整備、安全保障に関わる機密情報を漏らした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法を成立させました。

 昨年11月、第一次内閣と合わせ、戦前の桂太郎元首相を抜いて憲政史上最長の在職期間を達成し、連続在籍は7年8カ月となり、歴代最長の2798日を8月24日に抜いたのです。

 安倍氏は決断の理由について、体調不安を抱えたままでは政権運営は困難だと判断したとし、「国民の負託に自信をもって応えられる状態でなくなった以上、首相の地位にあり続けるべきではない」と説明しました。
 「病気と治療を抱え、体力が万全でない中、大切な政治判断を誤ってはならない」とも述べ、公的職務に命を懸けつつも私欲無き潔い指導者の姿を全国民、全世界に示したのです。
 そして「さまざまな政策が実現途上にある中、コロナ禍の中、職を辞することについて国民の皆さまに心よりお詫び申し上げる」と語り、口を結びました。

 記者会見当日まで、最側近といわれる誰もが安倍氏の決断を知りませんでした。孤独にお一人で決められたのです。会見に先立ち、麻生副総理兼財務相と約35分間会談。その後、自民党の二階幹事長、公明党の山口代表と相次いで会談して辞意を伝えたのです。

 会見で安倍氏は、「自分自身の健康管理も首相としての責任だろうと思う。それが十分できなかったという反省はある」と述べるとともに、「まさに見えない敵と悪戦苦闘する中において、全力も尽くさなければならないという気持ちで仕事をしてきたつもりだ」と無念もにじませました。

 安倍氏の胸中にある「残された課題」とは、憲法改正であり、拉致問題の解決であり、靖国神社参拝の継続であり、北方領土の返還と日ロ国交正常化であり、そして東京五輪・パラリンピック開催の行方を見定める、ということでしょう。目に涙をうっすらと浮かべながら、無念をにじませる場面もありました。

 9月中旬には、自由民主党新総裁が選出され、特別国会における首班指名選挙があり、新首相が決まり、新たな内閣の陣容が決まっていくこととなります。

 安倍晋三総裁・総理、本当にお疲れ様でした。一日も早いご回復を祈ります。安倍氏の力を日本、アジア、世界が必要としています。