世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

求心力を失う文在寅政権

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は8月10日から16日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 アザー米厚生長官、蔡英文総統と会談(10日)。国民民主党、分党へ―玉木代表表明(11日)。香港警察、民主活動家周庭氏ら保釈(11日)。米、民主党副大統領候補に初の黒人女性(11日)。イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交樹立で合意(13日)。韓国・文在寅大統領、日本に対話呼び掛け(15日)、などです。

 文在寅政権の支持率が急速に下がっています。今後の日韓関係への影響が懸念されます。

 文氏は8月15日、「光復節」の式典で演説し、「徴用工問題」については、2018年の大法院(最高裁)判決を「尊重する」との従来の姿勢を改めて示しました。これまでの立場を変えず、日本に対話を呼び掛ける内容でした。

 大法院判決の下、大邱地裁浦項支部は今年6月、日本製鉄(旧新日鉄住金)に株式差し押さえの決定を伝える「公示送還」手続きを実施しました。

 公示送還とは当事者に書類が届かなくても、裁判所が書類を一定期間公開することで届いたとみなす仕組みであり、8月4日午前0時にその効力が発生しました。

 日本製鉄は即、韓国裁判所(大邱地裁浦項支部)による同社の韓国内資産差し押さえ命令決定を差し止めるため即時抗告状を提出しました。

 今後、裁判所による資産の売却命令が出れば現金化、原告への支払いに向かいます。諸手続きを考えれば、年末ごろまでが焦点になりそうです。
 現金化が実行されれば、日韓関係の一層の悪化は避けられません。

 韓国は今月、大規模な水害に見舞われて復旧に苦闘しています。新型コロナウイルス再拡大も深刻です。特に不動産価格の高騰により若年層を中心に文政権を批判する声が高まっているのです。

 世論調査「韓国ギャラップ」が14日に発表した結果によれば、文政権の支持率は39%、不支持は53%となりました。

 特に不動産価格の高騰問題は政権にとって打撃となっています。文政権が発足した2017年5月から今年5月までの約3年間で、人気が高い首都圏の中間価格帯は6億600万ウォン(約5400万円)から9億2000万ウォン(約8200万円)に跳ね上がったのです。約1.5倍です。一生かけても自分の家を持つことができない、との絶望感と虚無感が若者の間に広がっているといわれます。

 文政権は昨年12月、対策として、2軒以上の住宅を所有する公務員に対して自宅以外の住宅を売却するように勧告しました。しかし住宅供給は伸びませんでした。
 ところが、政権幹部や文氏の側近らが、複数の住宅保有者でありながら売却していなかったことが判明。盧英敏秘書室長は、半年以上も2軒の住宅を所有し続けていたのです。

 当然批判の声が上がりました。その結果、盧英敏大統領秘書室長その傘下の政務、民情、国民疎通、人事、市民社会首席秘書官5人全員が8月7日、辞意を表明したのです。辞意を表明した5人の首席秘書官の内、3人が複数の住宅を所有していたのです。

 他に、正義連帯(旧挺対協)の前理事長・尹美香氏に対する寄付金不正使用疑惑、ソウル市長だった朴元淳氏のセクハラ疑惑と自殺も政権および「ともに民主党」支持離れにつながっています。

 今後、政権求心力の回復手段として「反日」政策が利用されるのではないかと懸念されます。