世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

強まる日英連携~日英貿易協定「実質合意」へ

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は83日から9日までを振り返ります。

 この間以下のような出来事がありました。
 仏、香港との犯罪人引き渡し条約停止(3日)。自民、敵基地攻撃能力提言了承、元防衛相ら首相に説明(4日)。北朝鮮、コロナで4千人超隔離中—WHO、情報共有を要請(6日)。韓国大統領府高官6人が辞意、秘書室長も(7日)。米、香港長官ら11人制裁―自治、表現の自由抑圧(7日)。日英貿易協定、実質合意(7日)、などです。

 日英間の最近の動きについて説明します。
 茂木敏充外相が8月5日から8日まで英国を訪問。7日には貿易協定の実質合意に至りました。

 日本がEU(欧州連合)と結んだ経済連携協定(EPA)は、大半の品目の関税が将来的に撤廃される内容で昨年(2019年)2月に発効しています。
 しかし英国は今年1月、EUから離脱しました。それによりEUの貿易ルールが適用される移行期限の今年末を過ぎると、日・EU間の優遇が英国との関係に適用されなくなるのです。
 結果として日英間の関税が年末を境に高くなってしまいます。そのため両国政府は新たな貿易協定の合意に向け、事務レベルで交渉を続けてきたのです。
 これが両国政府が貿易協定交渉を急ぐ理由です。

 交渉の焦点は、日本は主に自動車、英国は農業部門などです。日・EU間では、自動車関税は段階的に引き下げ、発行8年目の26年に撤廃することとなっています。日本側は英国側に撤廃時期のさらなる前倒しを求めているとみられます。

 当初は7月中の妥結も視野に、交渉官同士の協議を進めていました。しかし「二つの誤算」が要因となり、多少の遅れとなったのです。

 一つは、英国が日本へ輸出する麦芽やチーズなど農産品に対する関税優遇枠の新設、EU産原材料を使った食料品の関税優遇を求めたことです。

 もう一つは、新型コロナウイルスの感染拡大でした。
 事務方トップの首席交渉官による協議はテレビ会議方式となりました。直接交渉であれば、交渉のテーブルだけでなく、休憩時間や夕食などで相手の本音を引き出すのが通商交渉の常套(じょうとう)手段といえるものですが、今回はそれが通用しなかったのです。しかし両国の熱意がこれらの壁を乗り越え早期の妥結に向かわせることでしょう。

 英国はさらに、日本との通商協定を足掛かりに環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に参加し、アジア太平洋地域の経済成長を自国に取り込むことを狙っていると思われます。

 英国の元首相・ブレア氏が産経新聞(「産経」85日付)のインタビューに応じ、日本に対して、米英など5カ国で構成される機密情報共有の枠組み「ファイブアイズ」への参加に期待する発言をしています。ブレア氏は「ファイブアイズと日本は、中国問題において共通の利害で結ばれているため、(日本が参加する)十分な論拠があると思う」と明言しています。

 日本が加わるためには、日本自身が変わらなければなりません。情報収集・分析能力を高めるとともにスパイ行為を取り締まるスパイ防止法などの整備が課題となるのです。日本は覚悟をもって連携すべきです。