世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国、許章潤元教授を連行、しかし1週間後に釈放

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は76日から12日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 中国当局、政権に批判的な許章潤清華大元教授を拘束(6日)。ソウル中央地裁、金正恩委員長に元韓国兵捕虜に対する賠償命令(7日)。中国、香港に「国家安全維持公署」開設(8日)。韓国・ソウル市長、遺体で発見。韓国警察自殺と認定(10日)、などです。

 許章潤氏の拘束問題を扱います。
 許氏は、習近平国家主席の母校、清華大学の法学部教授でしたが、習政権に対する批判的な言動により昨年326日、停職処分を受けていました。

 7月6日、北京市内の自宅から公安当局によって連行されたのですが、許氏の知人によれば、許氏に買春疑惑を適用しようとしているといいます。

 許氏の勇気ある言動を以前このコラムでも取り上げたことがありましたが、2005年に優秀な若手法学者として国家から表彰されたこともある有能な人物です。
 基本的な考え方は「改革開放路線」の維持発展であり、習政権の独裁的で覇権的路線に対して懸念と批判を繰り返してきました。
 中でも、一昨年(2018年)7月、氏は民間のシンクタンクのサイトに「私たちの恐れと期待」と題した論文を掲載し、内外に衝撃を与えました。

 論文では習氏の名指しこそ避けましたが、3月(2018年)の憲法改正で「210年まで」だった国家主席の任期が撤廃されたことを強く批判しました。
 「根拠のない『スーパー元首』を生み出すものであり、翌年の全人代で任期制を復活すべき」と主張したのです。

 習氏を個人崇拝する風潮を「直ちにやめなければならない」とし、「共産党メディアの『神づくり』は極限に達している。なぜこのような知的レベルの低いことが起きたのか。反省しなければならない」と痛烈に批判したのです。

 そして今年です。許氏は522日の全国人民代表者大会(全人代)の開幕に合わせて、政府のコロナ対応を批判する論文をインターネットで公開したのです。
 表題は「世界文明の太陽の上にある中国という孤独な船」です。

 国内の新型コロナの防疫措置と国際社会への対応が中国の異質さを際立たせて世界での孤立が進む、国民への謝罪と一連の政策決定過程を公開してウイルス感染源の徹底調査を要求、武漢市の封鎖措置などが効果を上げたことは認めつつも、日常的な専制状態を拡大させたにすぎない、と指摘したのです。

 さらに当局による情報の遮断や権力に対する社会の監視機能の欠如といった問題点を列挙し、感染拡大で共産党の一党支配体制の「弊害が露呈した」と指摘しました。

 許氏の買春疑惑の真偽は分かりませんが、逮捕そのものが目的であったことは確かです。1週間後の12日に釈放されましたが、今後の許氏の言動、政権内部の動向も注目されます。