世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

安倍首相主導の対中G7「共同声明」発表

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、6月15日から21日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 日本、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入計画停止発表(15日)。黒人差別対応・警察改革の大統領令にトランプ氏署名(16日)。北朝鮮、南北連絡事務所を爆破(16日)。中印国境で衝突し印兵士20人死亡(16日)。第201通常国会が閉会(17日)。米で「ウイグル人権法」が成立(17日)。G7外相、香港問題で中国批判声明発表(18日)。政府、陸上イージスを停止から撤回へ(19日)、などです。

 今回は、日本が主導したG7の共同声明を取り上げます。日米など先進7カ国の外相とEU(欧州連合)の上級代表が6月18日、「共同声明」を発表しました。中国政府による香港への国家安全法制度の導入に「重大な懸念」を表明し、導入決定の見直しを要求する内容です。

 声明の発出に関しては安倍首相が取りまとめに尽力し実現しました。日本は、自由と民主主義、法の支配という価値観を掲げるG7のうちアジアで唯一の国です。安倍政権には今後、声明にとどまらない行動へとさらに踏み込んでもらいたいと思います。

 声明内容は、香港への国家安全法制導入措置によって、これまで香港に認められてきた基本的権利が侵害され、「法の支配や独立した司法システムの存在により保護される全ての人民の基本的権利や自由を抑制し、脅かすことになる」とし、言論や表現、集会などの自由を保障した「一国二制度」が有名無実化することになるため、導入の見直しに言及しています。

 中国の措置は、香港市民や英政府が反発していることから分かるように、返還から50年間にわたる「一国二制度」を定めた中英共同宣言(1984年)に真っ向から反対するものです。中国が、国際社会との約束を反故(ほご)にしないよう、G7が声を上げたのです。

 中国は厳しく反発しています。外務省報道官は「共同声明」発表を受け、内政問題だとして「強い不満と断固たる反対」を表明しました。

 新たな法制度は、全国人民代表大会常務委員会の法案可決を経て、早ければ月内に香港で施行されると見られています。法案内容は、犯罪行為として、国家の分裂、政権の転覆、テロ活動、海外勢力と結託して国家の安全に危害を加える行為(四分類)を挙げています。

 今後、多くの市民や企業が海外へ脱出する可能性があります。外に開かれた国際都市・香港の地位も根底から崩れることになる可能性があります。

 米国の姿勢は明確です。昨年11月、香港人権民主法を制定し、中国政府が国家安全法制導入を強行すれば、香港に認めてきた関税やビザの特別優遇措置を撤廃すると表明しました。

 日本のさらなる行動が求められています。