世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

注目すべき米国海兵隊の再編計画

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は3月30日から4月5日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 中国、新型コロナ無症状患者公表へ(3月31日)。北朝鮮でも新型コロナで多数の死者か、北朝鮮消息筋(31日)。アマゾン奥地の先住民族の新型コロナ初感染確認(31日)。米国海兵隊、全面的な組織再編に向けた10カ年計画を公表(3月末)。原発の処理水放出をIAEA〈国際原子力機関〉支持(4月2日)などです。

 3月末、米国海兵隊が全面的な組織再編に向けた10カ年計画を策定したことが明らかになりました。

 これまでは、中東などでの「テロとの戦い」に軸足を置いてきましたが、従来の姿勢を転換し、南・東シナ海周辺の島嶼部を拠点に中国海軍を封じ込めることを最重要課題に位置付ける内容になっているのです。

 沖縄の名護市辺野古へ移設予定の普天間飛行場(宜野湾市)は米海兵隊の基地です。日本には約15000人の軍人が任務についています。

 米海兵隊の出発点は独立戦争の際、イギリス軍と戦うために酒場で募兵を行い、整備された大陸海兵隊。現在のアメリカ海兵隊は上陸作戦、即応展開などを担当する外征専門部隊で、世界の海兵隊の中で唯一、独立した軍となっており、現在のアメリカ6軍では陸軍、海軍、空軍に次ぐ4番目の規模で、管轄は海軍長官の下にあります。ヘリコプターの他、戦闘機や攻撃機による独自の航空部隊を保有し、他軍に依存せず航空支援を必要とする任務を実施できる能力を持っています。

 海兵隊にバーガー総司令官名で公表したこの度の再編計画文書は、「フォースデザイン(戦力設計)2030」といいます。

 その内容は、2018年に発表した国家防衛戦略に基づくもので、任務の重点を内陸部での「対テロ掃討作戦」から、インド太平洋地域で米国の「戦略的競争相手」である中国とロシアの脅威への対処に転換するものです。

 特に中国による海洋覇権を目指す策動をにらみ、海兵隊の本来の任務である上陸作戦など沿海部での作戦行動を重視し、海軍の作戦を支える前方展開部隊として海軍との統合を強化していくとしています。

 計画文書によれば、図上演習を重ねた結果、中国軍のミサイルや海軍力がインド太平洋地域での米軍の優位を脅かしつつあることが分かったとし、海兵隊は今後、中国海軍と戦うために複数の比較的小規模な部隊を中国軍のミサイルなどの射程圏内にある離島や沿岸部に上陸させて遠征前線基地(EAB)を設営し、対艦攻撃や対空攻撃、無人機の運用などによって中国軍の作戦行動を妨害するとしています。

 文書は具体的な作戦内容には言及していませんが、九州南端から台湾北東にかけて南西諸島(中心は沖縄)に沿岸防衛巡航ミサイル(CDCM)や迎撃ミサイル、センサー、哨戒艇基地や補給拠点を分散配置することを想定していることは明らかです。

 文書は同時に、武装集団の離島上陸や公海上での民間船への襲撃といった、いわゆる「グレーゾーン事態」に対処し勝利できるようにすると明記されています。

 米海兵隊が尖閣諸島周辺(沖縄県)や南シナ海のスプラトリー諸島などでの作戦行動も念頭に置いていることが分かります。日米同盟の質的変化に結び付く重大な計画であることを強調しておきたいと思います。