夫婦愛を育む 106
みんな一生懸命生きている

ナビゲーター:橘 幸世

 主人の実家で二世帯同居するようになってから、新聞のお悔み欄を見るようになりました。近所に不幸があれば、義母に相談し適切な対応をする必要があるからです。

 時々40代や50代、あるいはもっと若いかたの名前を見つけると、全く知らない人ながら、病気だろうか事故だろうかと、その早すぎる死に、その人生に、一瞬思いを馳せます。

 最近は葬儀に参席することも増えました。そんな場で感じるのは、「誰もが一生懸命生きてきた」ということです。

 義母の代理で参加する場合、当然ながら、亡くなられたかたについては知らないことが多いです。でも、その人のたどった人生や、家族や親族からの送る言葉を聞くと、その生涯に“尊さ”を感じるのです。その尊い何かが、その人の人生に関わった人たちの中に残っていってほしいと、残っていくだろう、と思います。

 現在放送中のNHK朝ドラ『スカーレット』の前半は、見ていて心がざわざわすることが何度かありました。

 家の事情で主人公が高校進学を諦めなければならなかった時や、大阪で下働きからようやく一人前になって好きな勉強を始めようとした段階で父が強引に家に戻した時などです。

 主人公は、何度も何度も家族のために自分の思いをのみ込んできました。父親は、仕事で失敗しがち、困窮の中でも酒をやめられない、一方的に決める、すぐ怒り出すといった次第で、見ている私は、娘に我慢させる前に自分が努力する余地があるだろう、と思ったものです。そして、そんな父の言うことを聞いて(受け入れて)、逆らうことなく、長女として家族のために励む主人公の心持ちが、私には測りかね、同情しきれなかったのだと思います。

 そんなヒロインと重なるのが、先回紹介した『スウ姉さん』です。
 突然逆境に落とされたスウは、家族のためにピアニストの夢も、恋人との結婚も先延ばしにし、結局はどちらも手放します。周りが自分勝手で、頼るばかりで彼女の苦労を思いやって手を貸そうとしない中、それでも頑張り続けるヒロインの姿に、読んでいて歯がゆい思いがしたものです。そう感じる私は、報われずとも為に生き抜く、という覚悟ができていないのかもしれません。

 著者は本の冒頭で「全世界いたる所に、無数に散らばっている“スウ姉さんたち”に、この作品をささげます」と述べ、「しんぼうづよく、不平をいわずに、“わずらわしい毎日の雑用”を果たしながら、はるか遠いかなたに自分たちをさしまねいている“生きがいのある生活”をながめているのが、それらのスウ姉さんたちです」と著者は愛情を込めて書いています。

 『スウ姉さん』が書かれて100年たちました。科学が発達し男女平等がうたわれるこの21世紀にも、たくさんのスウ姉さんがいると思います。
 親の介護のため、兄弟姉妹を養うためなど、さまざまな事情から、自分の願いや幸せを横において、一生懸命生きている人たち。誰に認められるわけでもなく、置かれた環境の中で頑張る彼女たちこそ、神様が慈しまれる貴い存在だと思うのです。