世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

台湾・国民党主席選、「中華民国」主張の江啓臣氏圧勝

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 3月2日から8日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 北朝鮮、今年初の飛翔体発射(2日)。タリバン、アフガン政府軍への攻撃再開を宣言(2日)。金与正氏、文政権非難「三歳児並み」—朝鮮中央通信(3日)。米軍、タリバン戦闘員に空爆 和平に暗雲(4日)。日本政府、新型肺炎拡大の阻止のため、中国、韓国からの入国制限策を発表(5日)。韓国政府、日本人に対するビザ免除の停止を発表(6日)。台湾、国民党主席選挙 江啓臣氏が当選(7日)。米、ニューヨーク州知事 新型肺炎拡大阻止のため非常事態宣言を出す(7日)、などです。

 台湾の最大野党、国民党主席選挙が3月7日に行われました。1月の総統選と立法院(国会)選での大敗を受けた、前主席・呉敦義(ごとんぎ)氏の引責辞任に伴う補欠選挙として行われたものです。

 結果は、若手の代表格といわれる立法委員(国会議員)の江啓臣(こうけいしん)氏(48)が、党・軍の元老を父に持つエリート郝龍斌(かくりゅうひん)前副主席(67)を破って当選しました。

 圧勝でした。獲得票数は江氏が84,860票、郝氏は38,463票です。新型コロナウイルス感染懸念の広がりもあって、投票率は35.9%。補欠選挙ですので、江氏の任期は来年夏までとなります。

 1月の国民党大敗は、ひとえにその親中路線にありました。
 対中関係に関する江氏の主張は明確です。何よりも、中台双方が「一つの中国」を認めたとされる「1992年コンセンサス(合意)」について「古くなった」とし、民意に基づく新たな中台間合意を探る考えを示しました。そして、中国に自由で民主的な制度を持つ「中華民国」(台湾の「国号」)の存在を認めるよう求めるとの強硬姿勢なのです。

 焦点となっている「1992年合意」について簡単に説明しておきます。
 中国と台湾は1949年の分断後、交流を厳しく制限していましたが、1992年の交渉で高いレベルの会談に道を開いたのです。

 問題はその際の内容に対する見解です。
 中国側は「中台が共に『一つの中国』に属するという原則を確認した」とするのに対し、台湾側では論争が起こりました。国民党は「中国」が何を指すかについては中台それぞれが解釈するという内容だと主張しつつ、「合意」自体は認めて中台交流を進めました。しかし民進党は「台湾は中国とは別」との考えで、「合意」を認めていないのです。

 問題はこれからです。これまで国民党を「中台統一」の足掛かりと見なしてきた中国が強く反発するのは避けられません。
 国民党が「唯一の旗」として掲げてきた対中融和路線の行き詰まりと変更は避けられないでしょう。

 今後、新型コロナウイルス感染問題に一つの区切りが着いた段階での中国の動きが注目されます。台中路線での違いがほぼなくなった段階での民進党の動向も注目しなければなりません。