世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

トランプ氏のインド訪問―インド系米国人の支持獲得へ

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は2月24日から3月1日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 中国、全人代延期を正式決定、新型コロナウイルスで(2月24日)。トランプ氏がインド訪問(24日)。新型コロナウイルス―政府が対策基本方針を決定(25日)。プーチン大統領 露憲法改正は「国境画定交渉」妨げず(26日)。安倍首相、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、全国の小中高校に臨時休校を呼び掛ける(27日)。米国とアフガン反政府勢力タリバンとの和平合意成立(29日)、などです。

 トランプ大統領は2月24、25日と大統領就任後初のインド訪問を行いました。
 24日は10万人大集会での演説、25日は首脳会談でした。世界が中国発の新型コロナウイルス感染症拡大の影響で大集会の開催や移動を自粛している中、米国は「動いて」います。
 民主党は2月末から、11月の大統領選挙に向けた予備選(候補者選び)で党員集会を開催し、メディアはその動向を連日伝えています。

 米国大統領のインド訪問は、インド独立(1947年)後、これまで3回しかありません。アイゼンハワー、ニクソン、カーターの3氏です。この「少なさ」に現れているように、米国との関係は遠かったのです。冷戦下においては、非同盟の立場ではありましたが、インドは旧ソ連に近い関係でした。

 24日、トランプ氏はモディ氏の故郷であるグジャラート州を訪れ、10万人以上が詰め掛けた集会(「ナマステ(こんにちは)・トランプ」)に参加しました。そこで「米国はインドを愛し、常にインド人に忠実な友人である」と語り掛けました。

 インド訪問の意味を理解しておきましょう。
 まず、安全保障面です。中国の台頭への対抗として「自由で開かれたインド太平洋」の一翼を担うインドと連帯を深めるためです。

 演説の中でトランプ氏は「最高で最も恐れられている防衛装備品を提供する」と述べ、哨戒ヘリコプターMH60Rシーホーク、攻撃ヘリAH64アパッチなど約30億ドル規模の売却契約が結ばれていることも強調しました。

 そしてもう一つの意味は、11月の大統領選挙を見据えて、トランプ氏の影響力を米国内でマイノリティー(少数派)として存在感を増しているインド系米国人に浸透させることにありました。

 全米のインド系住民は約440万人といわれています。人口の1%強に過ぎませんが、医師やIT技術者など豊かなエリート層が多く、政治的な影響力は大きいのです。

 インド系米国人は、他のマイノリティーと同じく、これまでは民主党支持者が多かったのですが、ビジネス優先、イスラム過激派に対する強硬な姿勢を示すなど、モディ氏と共通するトランプ氏の政治姿勢に共鳴する人々が増えています。トランプ氏の大統領再選への布石なのです。