愛の知恵袋 101
気を遣うより、頭を使え

(APTF『真の家庭』220号[2017年2月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

疲れがひどい…と嘆く男性

 ある30代の男性から相談を受けた時のことです。

 「私は何をしてもすごく疲れてしまいます。疲れやすい体質なんでしょうか…。とにかく、疲れが抜けないこと…それが悩みです」

 「お仕事では、力仕事が多いんですか?」

 「いいえ、公務員なんですが、力仕事というよりはデスクワークなんです」

 「ああ、では、“体の疲れ”というよりも、“気疲れ”のほうですね? 具体的にはどんなことで疲れるんですか?」

 「仕事で人と会って1時間ほど話をしても、疲れを感じます。職場で上司や同僚とやり取りするだけでも疲れます。役所の同僚たちと出張に行ったり、団体旅行に行った時でも、緊張しているのか、ずっと便秘だし、帰ったらどっと疲れが出ます」

 「周りの人達から、何か言われることはありますか?」

 「仲間からは、『もっと自然体で行けよ』とか『細かい事を気にするな』と言われるので、そう言い聞かせてはいるんですが、なかなか変われません。私のような性格の人間は、どうしようもないんでしょうか…。でも、このままだと、社会に適合できない人間になっていくんじゃないかと思うと、怖いです」

「性格を変えろ」と言われても…

 世の中には、“生真面目(きまじめ)” “神経質” “気が小さい”といったタイプの人はたくさんいます。そのような性格の人は、路上で百円玉を拾っても交番に届けないと気が済まない…という具合で、細かい事によく気が付き、人にも親切で、善良に生きている人が多いものです。

 しかし、「人を怒らせたくない」、「嫌われたくない」、「良い人でありたい」と思うあまり、仕事でも人間関係でも“気”を遣いすぎて疲れてしまいます。ある種の対人恐怖症的な面もあって、“人との付き合いが苦手”という傾向があります。

 相談してきた男性にもそのような性格を見ることができましたので、きっと仕事や対人関係で疲れているのだろうな…と感じました。

 このような場合、周りの人々は、“もっと大胆な人間になれ” “お前は気が小さすぎる” “いちいち気にするな” “ドーンと構えていろ”というようなアドバイスをしがちなのですが、実際には、あまり解決にはなりません。

 「性格を変えろ」と言われても、もって生まれた基本的な性格は、簡単に変えられるものではないからです。

気を遣わずに、頭を使う

 そこで、私は彼に一つの提案をしました。

 「『気をつかわずに、頭をつかえ』という言葉があります。これをやってみませんか」

 「えっ…。どういうことですか?」

 「気を遣うと疲れるけど、頭は使っても疲れない…というんですよ」

 一瞬、彼はキョトンとしていましたが、「ふうん、“気を遣わずに、頭を使え”…ですか」と言ったあと、何度か同じ言葉をつぶやいていました。

 しばらくすると、トンと手を打って、「あ、なるほど…、そういうことか。…そういうことなんですね」と何か腑(ふ)に落ちたものがあるようで、「先生、これ、やってみます!」と言うと、しきりにうなずきながら帰っていきました。

 3か月ほど経ったとき、彼から電話がありました。

 「先生、秘訣が少しわかってきました! あの言葉をいつも思い出しながら暮らしてみたんですが、以前よりも気持ちが楽になってきました。それに、昨日は、『あんた、最近、明るくなったね』と仲間から言われたんですよ!」

 確かに、電話の向こうの彼の声は、相談してきた時とは全く違っていたので、ああ、彼はコツをつかんだのだな…と思いました。

 実は、この言葉は、私がある人から頂いた言葉でした。私自身も若い頃、同じような悩みを持っていたのです。その時に、私の尊敬していた先生が、「気を遣わずに、頭を使えばいいんだよ」と教えてくれたのです。一瞬、「そんなことができるのか?」と思いましたが、時が経つにつれて、それがどういうことであるのかが、だんだん分かってきました。

 世の中では、“気くばり”や“空気を読む”ということは大事なことですが、頭を使えば済むことにまで気を遣っていると、疲れ果ててしまいます。

 もちろん、頭脳労働も長時間続ければ疲れが出て、一服の休養を必要としますが、周囲の人との付き合いに頭を使うことぐらいでは、それほど疲れたりはしないものです。