青少年事情と教育を考える 94
「産後クライシス」と夫婦関係

ナビゲーター:中田 孝誠

 「産後クライシス」についての記事が先月の新聞に掲載されていました(東京新聞1118日)。

 産後クライシスとは、出産をきっかけに夫婦の仲が急に冷え込むことを表した言葉です。

 原因について上記の記事は、よくいわれるように妻の愛情が夫から子供に向くというだけでなく、夫の関わりの薄さ、産後で妻の心身が不安定な状態にあることに理解がない夫の側の問題が大きいと書いています。それによって妻は夫への不満を募らせ、子育てに影響します。次の子を産もうという出生意欲も低下していきます。

 逆に、夫が育児に積極的に関わったり、夫婦が一緒に過ごす時間が長かったり、休日の会話が多いほど、夫婦関係の満足度が高まり、出産の意欲が高まるという社会学の研究などもあります。

 イクメンという言葉が広がったように、最近は子育てに積極的に関わる父親が増えていますが、夫婦関係が基本になっているというわけです。

 もう一つ、興味深い研究をご紹介します。
 友田明美・福井大学教授によると、最近の脳科学研究では女性は出産し母になると脳に劇的な変化が起き、子育てに必要な能力が高まっていくというのです(「養育脳」)。

 例えば、記憶力や学習能力の向上です。しかも、脳の変化は女性だけでなく男性にも起こるというのです(『親の脳を癒せば子どもの脳は変わる』NHK出版新書)。

 「養育脳」は、青年期の未婚男女であっても、例えば乳幼児との触れ合い体験を繰り返すことで育むことができると友田教授は述べています。「親になるための神経回路」が発達したというわけです。

 そうだとすれば、結婚前の若者の教育によって、夫として将来子育てに関わるための準備ができ、産後クライシスを防ぐことにもなるのではないでしょうか。