愛の知恵袋 92
夫の常識、妻の常識

(APTF『真の家庭』211号[2016年5月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

うちの夫は変わっている?

 結婚して4年目という婦人から相談を受けました。初めは良かったが、日が経つに従ってお互いに不満が生じて、言い争いをすることが多くなったというのです。

 「先生、うちの夫はちょっとおかしいんですよ!」

 「ほう、どんなところがですか?」

 「普通の夫だったら、妻が家事で忙しそうにしていれば手伝うんじゃないですか? ところが、うちの夫は手伝おうとしないんですよ」

 「全く手伝ってくれないんですか?」

 「私が頼めば、やってくれますよ。でも、言われるまでは何もしないんです。それと、普通なら、夫は会社であったことなどを妻に話してくれるんじゃないですか? ところがうちの夫は何にも話してくれないんです。私の父は家ではよく母の家事を手伝っていたし、夕食の時などに、会社でのことを母や私に話してくれていましたよ」

 「ほう、まめなお父さんだったんですね」

 「それに、普通なら毎日お風呂に入るもんでしょ。でも、夫は2日に1回しか入らないんですよ。冬なんかは『汗もかかないから』と言って、3日か4日に1回しか入らないんですよ。不潔だし、非常識でしょう?」

うちの妻は、普通じゃない?

 後日、彼女の夫と会ってみると、彼のほうにもいろいろと不満があるようでした。

 「変わっているのは彼女のほうですよ。だって、普通の妻だったら仕事よりも子供を優先するでしょう。うちの妻は、子供を預けて仕事をしたがるんですよ!」

 「ほう、そうですか…」

 「それに、普通だったら家の財布は妻があずかって、家計のやりくりをするもんじゃないですか。しかし、彼女は『私は数字は苦手だから、帳簿はあなたに任せるわ』と言って、私にやらせているんですよ。非常識だと思いませんか? 他にもありますよ。普通なら、朝はご飯と味噌汁をちゃんと食べるもんだと思いますが、『時間の節約』とか言って、毎朝、トーストと紅茶だけなんですよ。夕食にはやっと味噌汁が出てきますけど、それがまた薄いんですよね。『塩分のとり過ぎは体に毒』とか言って…。私のおふくろは、毎日朝晩、おいしい味噌汁をつくってくれたんですが…」

ライフスタイルの違いを認めてあげよう

 程度の差はあれ、似たようなことはどのご家庭でもあるのではないでしょうか。

 結婚して一緒に暮らし始めると、「え、なんで?」と思うようなことが次々に起こってきます。

 そこで、「それは、おかしい」と言って変えさせようとしても、相手は頑として応じようとしない。さらに要求すると喧嘩になる…。このようなことが起こってくると「なんて変な人!」「非常識な人だ!」という思いが湧いてきます。それが度重なると“失望感”や“怒り”が湧いてきて、夫婦関係が冷え込んでしまうことになります。

 私たちが結婚生活を始めるとき、まず初めに肝に銘じておかなければならないのは、「自分と相手は全く違う人間なのだ」ということです。

 男と女では心理面でも大きな違いがあります。そのうえ、もって生まれた性格が違い、育った家庭の環境や家風が違うので、夫と妻とでは「当たり前」「普通」「常識」と思うことが全く違っていてもおかしくはないのです。

男は火星から、女は金星から来たものと思え

 東京家族ラボ心理研究所主宰の池内ひろ美さんは、「結婚というのは、異なった『ふつう』という感覚を持った二人が一緒に暮らすこと。他人同士の人間関係なのです。それなのに、知らず知らずのうちに『ふつうの夫は…』『ふつうの妻は…』と、自分の基準での『ふつう』を配偶者に押し付けてしまいがちです」と指摘しています。

 また、心理学者のジョン・グレイ博士は、結婚生活について、「そもそも、男は火星人で女は金星人だった。その二人が出会って恋に落ち、地球という新しい環境で生活を始めたのだ…というぐらいに考えておくべきである」と説いています。

 つまり、夫と妻とでは、ものの見方も考え方も違うし、感じ方や反応の仕方も全く違って当然なのです。それを「自分と同じようになりなさい」と要求すれば、結婚生活はたちまち暗礁に乗り上げてしまいます。

 結局、結婚生活を成功させる秘訣は、「自分と相手の感覚の違いを認め合うこと」にありそうです。自分の“常識”とは違っていても、まずは相手の考えを受け入れてあげ、そのうえで双方が歩み寄って落としどころを探すというのが良策でしょう。