東京オリンピック・パラリンピックまであと1年!

改めてオリンピックの意義を考える(後編)

(第2回 ここがポイント! ビューポイント〈プレゼンター:木下義昭〉より)

 ところで、クーベルタン男爵はなぜ、スポーツ、オリンピックに情熱を注いだのでしょうか?

 当時のベストセラー小説、トマス・ヒューズの『トム・ブラウンの学校生活』にとても感動したからです。
 主人公のトム少年がパブリックスクールを舞台に、学業にスポーツに躍動する、そこに青少年教育の理想を見いだしたのです。

 ここが第3のポイントです。
 「人間の成長には肉体と精神との融合が必要である」ということです。

 当初のオリンピックは万国博覧会の付属イベントという位置付けでした。個人参加可能で、非常に小さい規模でした。

 しかし第1次世界大戦後、世界各国の一流選手が一同に集まるという大イベントになりました。
 このイベント性が「平和と民族の祭典」として脚光を浴び始め、オリンピックは世界有数の大イベントへと発展していきました。

 このプロセスの中で、マスメディアの飛躍的な発展がオリンピックの成長に貢献したことはいうまでもありません。

 次に、オリンピックの課題、問題点について見てまいりましょう。
 4点あります。

1. 政治利用
 オリンピック発展に貢献したメディアとの接近は、同時にメディアが政治利用されたということです。

 多くの人に思想を伝えることができるマスメディアは、政治家が国民をコントロールするのに都合がよかったのです。

 具体例を挙げてみましょう。
 1930年代ドイツで政権を握っていたヒトラーは、ラジオを実に効果的に使い、国民からの支持を集めました。
 ヒトラーはこのメディアの力をフル動員し、ドイツ民族やナチスの優秀性をアピールしました。そして、第2次世界大戦へと突入したのです。

 また、1980年のモスクワ大会のことです。
 1979年、ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議するためアメリカ・日本をはじめ多くの国々が大会参加をボイコットしました。
 これにより「平和の祭典」としてのオリンピックの権威は地に落ちてしまったのです。

 そしてオリンピックが政治化してしまった現状への批判が、世界的に行われるようになりました。

2. 商業主義
 テレビ中継や衛星同時実況中継が始まり、オリンピックのイベント性はますます巨大化していきます。

 1984年のロサンゼルス大会はその「商業主義」が大きな話題となりました。お金を集めるために民間企業をスポンサーとし、華やかで壮大なオリンピックを演出しました。
 ボイコット騒動にもかかわらず大幅な利益を上げることに成功しましたが、「利益優先」との批判も多くありました。

3. 環境問題
 会場設営のための「自然破壊」などが問題となりました。

4. ドーピング問題
 ドーピングの問題もなかなかなくなりません。

 オリンピックでメダルを争う、国別対抗の図式を改めるべきという声も聞かれます。
 世界の戦争・紛争は、「国益」を巡ってのことです。スポーツを通して人間的交流を深め、信頼関係を構築することは、国家間の対立を緩和し、「国際交流」「世界平和」に役立ちます。

 日本のオリンピック参加に尽力した嘉納治五郎は、「精力善用」「自他共栄」を唱えました。
 「日本の精神をも吹き込んで、欧米のオリンピックを世界のオリンピックに!」と語っていたのです。

 そもそも古代オリンピックは、多くの神々を崇めるための体育や芸術の競技祭でした。

 世界には多くの価値観があるので、多様性をお互いに認め、「共存・共栄・共生」を図るべきです。

 やはり、オリンピックは「聖なる神事」なのですから……。

(U-ONE TV『ここがポイント!ビューポイント』第2回「東京オリンピック・パラリンピックまであと1年!~改めてオリンピックの意義を考える」より)

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