夫婦愛を育む 78
認められたいから、あれこれ言う

ナビゲーター:橘 幸世

 夫の故郷で長男の嫁として生活をしていると、親戚付き合い、町内での役割など、いろいろな事をこなしていかなければなりません。
 長年同じ土地に住み、地元の人間同士で結婚し、親族が周りにたくさんいるという環境は決して珍しくはありませんが、よそから入ってきた者にはなかなかのチャレンジです。

 私が主人の家族と二世帯同居するようになってから一番変わったのは、自分の思うところを言わなくなったことかもしれません(主人には話せています)。

 町内の集まりや親戚の人に対して思うところがあっても、本音と建て前を使い分けているこの土地でこれを言ったら「あんたのところの嫁さんがこんなふうに言ってたよ」「はっきりものを言う嫁さんだね」などと義母が言われるだろうな、と母への影響を考えて口をつぐむようになりました。

 言わずにいると、言った場合には見えなかったものが見えてくるようになった気がします。自分が一歩引くので、客観的に、より俯瞰的に見ることができるからかもしれません。
 そういう意味では、良き訓練になったと思います。また、私がしゃしゃり出て言わなくても、私が思った方向に事が進むことも珍しくありませんでした。それぞれの立場の人が、(その人なりのやり方で)きちんと処理してくれるのです。

 先日、近所に住む80代の叔父さんが突然やって来ました。義母を訪ねて来たのですが、あいにく留守でしたので私に声を掛けて来ました。
 話が長く、法事などで皆が集まったら、場を独り占めして話し続けるタイプです。母への用件を伝えに寄ったのですが、やがて誰がこうであれがああでと(ちらりと批判や不満を織り込みながら)、自分の考え・やってきた事を話し始めました。

 全てを真に受けたり同意したりすることは難しいのですが、そこに見えるのは、認めてほしい・感謝してほしい・称賛してほしいという叔父さんの渇望。何だかんだあっても、家族・親族のために頑張って生きてこられたことには間違いありません。

 複雑な思いはのみ込んで、「いろいろとありがとうございます」と言いました。
 すると叔父さんがパッと笑顔になり、右手を差し出して握手を求めてきました。そして何か言って(方言で分からない)、畑で採れた野菜を置いて帰って行きました。

 ガミガミ口うるさい妻は(夫も同様でしょう)、実は自分の努力を認めてほしい、と本で読んだことがありますが、その思いが満たされたら、きっと皆素直に穏やかになれるのでしょう。