青少年事情と教育を考える 76
非認知能力を育てるのは「愛情」

ナビゲーター:中田 孝誠

 乳幼児期の教育の重要性は誰もが感じていることでしょう。

 ジェームズ・ヘックマン・シカゴ大学教授の『幼児教育の経済学』などで、幼児期に投資することで将来の経済的効果が大きいこと、そして非認知能力(感情や心の動きに関係する能力で、忍耐力や社会性、感情のコントロール力)を高める教育が重要であることなどが広く知られるようになっています。

 では、非認知能力を育てる上で、具体的に親は何に気を付ければいいのでしょうか。

 例えば、海外の研究を紹介した雑誌を見ると、「幼児の発達に必要なのは『愛情』だ」と述べられています。
 子供の脳を発達させるシナプス結合は0〜3歳の間に特に活発で、脳の約80%がこの時期に完成すると言われていて、ハーバード大学児童発達研究所のジャック・シャンコフ所長によると、このシナプス結合をもっとも活性化させるのが、大人との愛情ある交流だというのです。
 幼児の笑顔や声に大人が反応し、幼児がそれに答えて別の反応をする。このような相互交流が、幼児の脳の発達を促すというわけです(雑誌『クーリエ・ジャポン』ネット記事「子供の脳の発達に最も影響するのは『遺伝』でも『早期教育』でもなかった!」)。

 親によって無条件に愛され、基本的な信頼感と安心感を育てる。このことは日本の専門家も指摘しています。そして、子供の好奇心を尊重しながら、できるだけ自由に遊べるような環境を作ってあげる。そうすることで、認知能力(知識や記憶力、判断力など)も身に付いていくというわけです。幼児教育が大切と言っても、決して知識を詰め込むことではありません。

 一方、ヘックマンは著書の中で、幼児期に家庭で虐待や育児放棄の体験があると、成人になって、うつ病や自殺、麻薬乱用など重大な影響があること、社会的にも大きな損失があることを実証しています。

 今、日本で児童虐待が深刻な問題になっていますが、国を挙げてその予防に力を注ぐべきこと、そして親が子供に愛情を注げるような家庭支援、親教育が重要になっています。