世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

トランプ大統領、日韓「仲介」に意欲

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は7月15日から21日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米国防長官にエスパー氏を正式指名(7月15日)。トランプ大統領、イランの無人機撃墜を公表(18日)。米のホルムズ「有志連合」構想、他国に「船舶護衛強制せず」と説明(18日)。トランプ大統領、日韓「仲介」に意欲を示す(19日)。イラン、英国のタンカー拿捕(だほ)を発表(19日)。米ボルトン大統領補佐官、日韓歴訪へ(20日)。第25回参議院議員選挙(21日)、などです。

 今回は相互不信が高まる日韓問題にトランプ大統領が「仲介」の意欲を示していることについて説明します。

 日本の通商産業省による対韓輸出管理強化を巡って、両国の信頼関係が揺れています。韓国側は、「報復」であると反発。8月中にも始まる元徴用工原告団による被告企業の在韓資産売却と関連したものであり、発表が参院選の直前だっただけに、政治利用との批判も強くなりました。

 両国は今、信頼関係が崩壊に近い状況です。背景には慰安婦問題や元徴用工問題がありますが、その根本にあるのは「被害者に対する損害賠償」です。韓国は、1965年の日韓基本条約・請求権協定では「解決されていない」と主張し、日本側は、条文に明記されているように「完全に解決済み」であるとしています。

 韓国側主張の根底にあるのが「日韓基本条約・請求権協定の見直し」であるため、大法院判決を盾に一方的に主張すれば、日韓関係は法的には「断交」状態になる可能性を秘めています。

 この時点での米国の「仲介」は、問題解決につながるかどうかは分かりませんが、一定の意味を持つものと考えます。
 歴史的に見れば、日韓国交正常化は日韓両国が切実に求めたというより、米国主導で進められた経緯があるからです。

 米国は、朝鮮戦争をきっかけに朝鮮半島およびアジアの共産化を防ぐためには、日本と韓国の国交正常化によって韓国経済を成長させ、強い国にするとともに米国を中心とする韓国、日本による反共防衛体制をつくらなければならないと考えたのです。

 韓国側は、日本との国交正常化のために、自国が戦勝国の立場に立つ意味を持つサンフランシスコ講和条約(日本の主権回復の法的基盤)の署名国となろうとしたのですが、結果的には米国と英国の判断で不可能になってしまいました。

 韓国が戦勝国の立場に立てないということは、日本に対して損害賠償請求ができないということです。それが、日韓基本条約・請求権協定における韓国の立場です。根本的不満を残しながらも韓国は、強い米国の指導のもとで国交正常化に踏み切りました。朴正煕議長(当時)の苦渋の決断でした。

 文在寅政権の主張する「積弊清算」(積もった過ちの清算)の中核をなしているのが、「日韓基本条約・請求権協定の見直し」です。しかし日本側から見れば「国際法に反している」ということになります。

 米トランプ大統領は19日、両首脳が望むのであればという条件付きで「仲介」の可能性を示唆しました。
 ボルトン大統領補佐官も20日、日本と韓国を訪問するために米国を出発しました。日韓国交正常化の歴史的な経緯を踏まえて対応できるのは米国のみです。

 米国に期待したいと思います。