世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

香港200万人デモの背景

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、610日から16日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 トランプ大統領、金正恩委員長からの書簡を受け取る(10日)。金与正氏「協力継続願う」、韓国高官と板門店で面会(12日)。安倍首相、イラン・ロウハニ大統領、最高指導者ハメネイ師と会談(12日、13日)。ホルムズ海峡で日本の海運会社が運航するタンカーなどが攻撃を受ける(13日)。香港政府、「逃亡犯条例」改正を延期決定(15日)。香港で「条例改正案」撤回要求デモ過去最大級に、などです。

 今回は、香港での政府に対する抗議デモについて扱います。
 9日から始まり、その規模は主催者発表では103万人。さらに16日には200万人(主催者発表)以上に膨れ上がりました。

写真はイメージです

 香港は1997年に英国から中国に返還されました。
 返還に当たって、1984年、中英間で合意が結ばれ、50年間は「外交と国防問題以外では香港は高い自治性を維持する」ことになったのです。
 「一国二制度」といわれています。

 そのため、香港特別行政区では独自の法制度があり、表現の自由などの権利も保障されています。中国国内で1989年の天安門事件について市民が追悼できる数少ない場所となっているのです。

 今回の抗議デモの契機となったのは、香港政府が進めようとしている「逃亡犯条例」の改正です。逃亡犯条例は、香港以外の国・地域で犯罪に関わり香港内に逃げ込んだ容疑者の扱いについて、協定を結んだ相手国の要請に応じて引き渡すことができるよう定めた条例で、現在、20カ国と協定を結んでいます。

 ところが条例改正案では、「香港以外の中国には適用しない」という条項を削除し、中国本土への移送を可能にするものとなっているのです。

 デモの参加者は「香港を守れ」「中国本土に法治はない」「改正されれば、香港は中国と同じような非法治国家になる」と叫んでいます。
 中国の司法は共産党指導下にあり、党の指導に従わない人物の恣意的な拘束もあり得るわけです。香港の司法の独立は失われ、事実上の「一国二制度」の破壊につながるのです。自由な香港で日常的に行われてきたデモや、インターネット上の言論すら規制の対象になるかもしれないのです。

 想定される具体的ケースとして、香港で活動する活動家など中国政府に批判的な人物が、容疑を作り上げられて中国本土へ引き渡される、香港を訪れた外国人ビジネスマンや観光客も引き渡し対象になる可能性などがあります。米国をはじめ、欧米諸国も条例案改正に懸念を表明するようになりました。

 香港政府は15日、条例改正案審議を延期することを決定しました。しかし改正案に反対するデモは16日、撤回を求めて主催者発表で200万人(香港の人口は750万人)まで膨れ上がりました。

 香港政府、背後にある中国政府の判断ミスといわなければなりません。自由の要求は独裁圧力には屈しないのです。