愛の知恵袋 67
夢ができたら、スイッチオン

(APTF『真の家庭』179号[2013年9月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

ある母親の嘆き…夢がないわが子

 高校2年生の男の子を持つ母親から相談を受けました。

 「うちの子は思春期だから、干渉しないようにじっと見守ってきたつもりですが…。最近、『ほんとにこのままでいいんだろうか?』と心配になるんです」

 「どういう点で、ご心配なんですか」

 「友達と少し遊ぶくらいで、部活もしていません。家でも、勉強はしないし、テレビを見たり、ゲームをしたり、だらだらと過ごしているだけです。『将来何になりたいの?』と聞いても『分からない』と言うし、『大学に行く気はあるの?』と聞いても、『別に』と言うだけです。それ以上聞くと『うるさい!』って怒るので、どうしていいのか分かりません」

 日本青少年研究所が発表した、日、米、中、韓の高校生を対象にした「生活意識」調査(2007年)によると、米国は「一生に何回かは、でかいことに挑戦してみたい」、中国は「やりたいことにいくら困難があっても挑戦してみたい」、韓国は「大きい組織の中で自分の力を発揮したい」という答えが多かったのに比べ、日本の高校生は、「暮らしていける収入があれば、のんびりと暮らしていきたい」という答えが最も多かったのです。

 また、2012年発表の調査では、「自己評価」について、中国と韓国では、「自分は価値ある人間」、米国では「自分は他人と違う」と、自尊感が高いのに比べ、日本は「自分はダメな人間だ」「自分の将来に不安を感じる」といった自己評価が目立ちます。万事に控えめな日本人の気質を考慮したとしても、これは少し心配です。これらの調査から見えてくるのは、夢をもたない日本の若者の現状です。

子供の夢を引き出す質問力

 どんな子供でも、必ず何かの夢は持てるはずなのですが、本人が自分の中に潜在している才能をまだつかみきれていないのです。そして、家族や教師達も、それを引き出すことができていないだけなのです。

 では、一人一人の子供に、「自分が納得出来る夢」を見つけ出させてあげる方法はないものでしょうか?

 その方法としてぜひお勧めしたいのが、『100%子供に夢とやる気を持たせる』(コスモトゥーワン社)の著者、矢矧(やはぎ)晴一郎さんの提唱する「7つの質問」です。

1. 好きなものは何?
2. 好きなものを夢にしよう。
3. お金と時間がいくらでもあるとすると、何をやりたい?
4. 一番かなえたい夢は何?
5. どうすればその夢をかなえられる?
6. つくった夢に、どのくらい満足した?(100%になるまで煮詰める)
7. 今日から、夢をかなえるために生きよう。

 中学生の子供でも、いきなり、「将来、何になりたいの?」「どこの学校に行きたいの?」と聞かれても、はっきりと答えられる子は少ないのです。「さあ…」とか「別に…」としか答えない子供に親がイライラしてしまうわけですが、それは、「質問の仕方がよくない。子供の夢を引き出すには『質問力』が必要だ」と矢矧氏は言います。

 まず、「好きなものは何?」と聞くのです。まだ夢を持てないでいる子供でも、「好きなもの」はあります。複数あれば、一番好きなものを選び出します。そして、「では、その好きなものを夢にしよう!」と話します。

 本人が「どうせうちでは無理だ」と自分で壁を作っているときは、「じゃあ、時間もお金も十分にあるとしたら、何をしたい?」と聞いてあげ、心の中で一番やりたいと感じていることを浮き彫りにして、それを夢にします。そして、「それは、いいね!」とほめてあげ、それを実現するための道と、それにかかわる職種などを考えさせます。

夢を持てば、子供は自分で動き出す

 どんなに頭が良く才能のある子供でも、心に「夢」を持っていない時は、勉強にも意欲が湧かず、右へ左へと揺れながら、モヤモヤしたまま毎日を過ごします。

 しかし、「こんな事をやってみたい!」「あんな人になりたい!」「こういう仕事につきたい!」というように、心に夢が宿ると、あたかも何かのスイッチが入ったかのように、目を輝かせ、その目標に向かって動き出します。まわりの人達が驚くぐらいに変わるのです。

 私が知っている子も、夢ができたら急に行動的になり、関連する本を読んだり、インターネットで調べて、目指す学校も決め、勉強をするようになりました。あとは、親が本人の希望に応じて、必要な資料などを提供してサポートすれば良いのです。

 ただ、このとき大事なことは、最初の夢が親から見て気にいらないことでも、決して、バカにしたり、否定しないことです。「現時点での夢」を持たせてあげることが大切なのです。心配しなくても、子供はある時点までそれを究めると、もっと自分に合ったもの、もっと実現可能なものへと、夢を修正して進んで行きます。