青少年事情と教育を考える 64
アメリカの州で「中絶禁止法」が成立

ナビゲーター:中田 孝誠

 アメリカの州で、妊娠中絶を禁止する州法が相次いで可決・成立しています。今月15日にはアラバマ州で成立、17日にはミズーリ州の議会で可決しました。

 アラバマ州の法律では中絶手術を行った医師に最長で禁固99年を科すというものです。母体の生命に危険がある場合などには中絶が認められますが、性的暴行の被害や近親相姦の場合は認められません。

 この他、ジョージア州などで、胎児の心音が確認された場合、その段階で中絶を禁止する法案が成立しています。

 BBCニュースによると、全米50州のうち16州で中絶を禁じたり制限する法案が提出されているということです。

 こうした動きにトランプ大統領は、「自分自身は中絶に反対で、例外は性的暴行と近親相姦、母親の生命を守るためであれば認める立場だ」と述べています。

 こうした各州の動きに対して人権団体などは、州法は女性の権利を侵害するものだとして反発しています。

 アメリカでは、1973年の連邦最高裁判決「ロー対ウェイド判決」で中絶が認められましたが、中絶賛成派と反対派の間で長い間、時には過激な行動が伴うような論争が続いてきました。背景には「人間にはいつから命が宿るのか」という人間観、宗教観があります。

 少なくとも犯罪被害者などに対しては、トランプ大統領が述べているように救済策が必要ではないかと思われます。一方で、中絶が女性の権利という容認派の主張には違和感を覚えます。

 注目しておくべきなのは、オバマ政権時代からの転換です。
 今回の州法に対しては、訴訟で最高裁まで争われる可能性があるともいわれています。それでも、連邦最高裁の判事はトランプ政権になって2人が交代し、現在は保守派が多数を占めているため、中絶容認派の主張がそのまま通るとは限りません。

 つまり、リベラルな社会政策を次々と打ち出したオバマ政権(同性婚容認は最たるものでしょう)から、トランプ政権になって大きな方向転換の動きがあるということです。それが今回の州法成立に影響を与えていることは確かでしょう。