夫婦愛を育む 65
「クジラのように全てをのみ込む」と言われても…

ナビゲーター:橘 幸世

 以前に本欄で朝ドラ『まんぷく』を取り上げた際、ヒロインのモデルとなった安藤仁子さんの波乱万丈の人生を生き抜く秘訣を紹介しました。

 「クジラのように全てをのみ込む」

 夫の起業、不当な拘留や投獄、破産、再起業――文字どおり“波乱万丈”。どの出来事一つをとっても、受け止めるのは大変です。

 私たちの人生においても、大なり小なり予期せぬ出来事が起こります。凡人たる私などは、そのたびに苦しみあがきますが、結局は受け止めていく以外に、心穏やかになることも、乗り越えていくこともできません。

 が…! クジラのキャパ(容量)にも限度があります。

 近年は、海岸に打ち上げられたクジラの体内から大量のプラスチックごみが見つかる事例が報告されるようになりました。
 一頭のクジラから出てきたごみの重さ40キロというケースもあり、驚きを禁じ得ません。のみ込んで、消化できず、命を奪われたのです。

 同様に、私たちの心のキャパにも限度があります。消化できないものは、吐き出さなければ、体調に異変を来たしかねません。
 体に異変が起きて初めて、キャパを越えていたことに気付き、自分に優しくなれる場合もあるでしょう。

 天気を、自分の思うようにコントロールすることはできません。最善の対策で臨むだけです。人生におけるさまざまな出来事も、自分の力ではどうしようもないことが多々あります。

 そんな時は、最善の対策として、受け止めて消化しようと努めますが、食べ物と同様、すぐに消化できるものもあれば、時間を要するものもあります。少しずつ、ゆっくりと、時に数カ月、あるいは数年と、時間をかけて消化していくこともあるでしょう。
 一度にたくさんのみ込み過ぎた時は、吐き出して、負荷を減らしましょう。

 吐き出し方は、各人の置かれた環境や性格などによってさまざまかと思います。
 天に祈る、紙に書き出す、叫ぶ、信頼できる人に聞いてもらうなどなど…。安心して話せる相手がいなくても、祈り求めていく中で、たまたま顔を合わせた人に思わず吐き出すこともあるでしょう。そして案外その人が聞き上手だったりして、良い方向に向かうかもしれません。

 あるいは、しんど過ぎて、受け止める以前にその事を考えること自体をやめなければ、やっていけないこともあるでしょう。

 そうして、その人のペースで事態を消化していく過程こそが、(大変ではありますが)実はとても貴く、さまざまな気付きを得て成長していく時なのです。
 いつの間にか、キャパも大きくなっているでしょう。