愛の知恵袋 63
ステップを踏んで高めていく夫婦の愛

(APTF『真の家庭』173号[2013年3月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

妻の気持ちを測りかねている夫

 ある男性から相談がありました。

 「結婚して10年になりますが、どうもうまくいきません」

 「どのような面でうまくいかないのですか?」

 「とにかく全てがギクシャクしていて、家庭の中に喜びというものがないんです…」

 「そうですか。では、多くの事に不満があるとして、その中でも、強いて言えば、何が一番ご不満ですか?」

 「うーん……、突き詰めてみると、やはり、夫婦生活のことですかね…」

 聞けば、結婚して最初の半年くらいは、愛の関係はそれなりにあったが、妻の妊娠・出産以降は、ほとんどなくなってしまったそうです。彼がたまに求めても、何かと理由をつけて断られることが多くなり、夫婦間の衝突も増えてきたと言います。

 「妻は私が嫌いなんでしょうか?」

その気になれなかった妻

 そこで、奥さんに聞いてみますと、「え? 夫がそんなことを言ってましたか?」と意外そうな顔でした。

 「私としては、夫を嫌いになってしまった訳ではありませんし、夜の生活に特別なトラウマを持っているわけでもありませんが…。何て言うか、要するに、そんな気持ちになれなかっただけです。だって、彼は、家では口数が少ないし、家事にも協力的でないし、買い物に一緒に行くことだって少ないし…。第一、夫婦の会話自体が少なくて、何を考えているのかよく分からないんです…。たまに、求めてくるときも、“突然”という感じで、こちらの事情とか、気持ちとかは全くお構いなしに言ってくるんで、受け入れにくいんです」

 最近は、このような“性の不一致”の悩みは、男性からだけではなく、女性の側から聞くことも多くなりました。

結婚生活とは、夫婦の「ふれあい」のこと

 結婚生活のポイントは、「夫婦の関わり方」、つまり、「夫婦の交流」「夫婦のふれあい」にあると言えます。夫と妻が毎日の生活の中で、“どのようなふれあいができたか”によって、満足・不満足が決まってくると言ってもよいでしょう。

 ところで、夫婦の“かかわり”には、基本的には五つのレベルがあります。

 第一段階は、物のやりとりです。家庭で「これ、おいしいよ」と菓子や果物をあげるとか、帰宅してお土産を渡すといった物のやりとりです。口もきかなくなった夫婦でも、「ご飯を出す」「黙って食べる」、「お金を渡す」「黙って受け取る」というふうに、最低限、衣食住の生活上の物のやりとりだけはします。(このやりとりさえもできなくなったら、夫婦の関係は終わりということになります)

 第二段階は、言葉の交流です。挨拶を交わすことから始まって、世間話、仕事や家族の話、趣味の話、夫婦水入らずの話に至るまでの言葉によるコミュニケーションです。

 第三段階は、行動を共にすることです。例えば、夫婦が一緒に、仕事をする、買い物をする、行事に参加する、散歩をする、趣味を楽しむ、旅行をするなど、行動を共にすることによる“心のふれあい”です。

 第四段階は、体のふれあい、スキンシップです。夫婦は親密感が高まると、「行ってらっしゃい」とか「ただいま」と言いながら、親愛のキスをしたり抱擁をしたりします。また、外を歩くときに手をつないだり、腕を組んだりします。家でも、肩をポンとたたいて名前を呼んだり、マッサージをしてあげたりします。

 第五段階が、心身ともの一体化である夫婦生活です。本来の夫婦生活は、全人格的なふれ合いであり、夫婦のコミュニケーションの最高形態なのです。お互いに心から求め合い、心と体を捧げて奉仕し、喜びを共有する愛の行為なのです。ここにおいて心身ともに満たされれば、本物の愛の一体化が実現します。

段階を踏んでいけば、自然な愛のふれあいに

 先ほどのご夫婦の場合、そこに至る前の基礎的な「ふれあい」ができていないのに、いきなり、最高段階の交流である夫婦生活に臨もうとしていたので、基本的に無理があったのでしょう。

 しかし、このような“性の不一致”で悩むということは、結婚生活ではよくあることです。お互いに波動が合わず、不満を感じ、失望やいらだちを覚えている夫婦は少なくありません。

 感動的な夫婦生活を期待し、愛を極めたいと望むなら、まず、第一段階の物のやりとりを増やすところから出発して、さらに、夫婦の会話量を増やし、同伴行動を増やし、スキンシップを増やしていく…という段階を踏んでいけばよいのです。

 そうすれば、より自然な形で最高形態の夫婦愛に進んでいくことができます。