世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

「合意なし」、米朝首脳会談

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 225日から33日までを振り返ります。

 この間、次のような出来事がありました。
 インド軍戦闘機がカシミール地方を越境し、パキスタン側の武装組織の拠点を攻撃(226日)。米太平洋艦隊の艦船2隻が台湾海峡を通過。昨年7月以降、少なくとも5回目(25日)。米朝首脳会談開催、ベトナムの首都ハノイ(27日、28日)。玉城デニー沖縄県知事、安倍晋三首相と面会(31日)。韓国、「3.1独立運動」100周年記念行事開催(1日)。2019年度予算案が衆院を通過(2日)、などです。

 今回は2回目の米朝首脳会談を扱います。
 結果は、「合意なし」「共同声明見送り」となりました。28日、準備された昼食会もキャンセル。しかし互いに笑顔(?)で握手して別れたのです。

 記者会見でトランプ氏は、「北朝鮮は準備ができていなかった」と述べました。昨年6月の首脳会談後の高位級会談(ポンペオ国務長官、金英哲副委員長など)で、両国の「溝」は明確となっていました。

 米国は、北朝鮮の「核開発の全容申告、リスト提出」を非核化の「入り口」とし、一方北朝鮮は、それは米国に攻撃目標をさらすようなものであり、最終段階=「出口」だと主張していたのです。
 北朝鮮は、現段階では核開発の総本山ともいわれる寧辺核施設の全廃と米国による検証の受け入れ、そして平和宣言(終戦宣言)と経済制裁の緩和で合意しようとの立場だったのです。

 事前予測として、トランプ氏がこの北朝鮮提案を受け入れるのではないかという「懸念」が広がっていました。しかしトランプ氏は交渉を中断、「席を立った」のです。米国は十分に準備し、非核化が不十分であれば取引をしないという基本方針を固めていたと思われます。
 米国には、1990年代からの対北非核化交渉の苦い経験が教訓として積み重ねられています。北朝鮮は常に、非核化の具体的行程を作る段階で反発、核開発の全容リストの提出を拒否するのです。
 しかし北朝鮮は、そうした米国の決意を見誤り、部分的な核の放棄で合意に至ることができると考えていたのでしょう。「トランプ狙い」の思惑が外れたのです。

 首脳会談は事実上の「決裂」となりました。しかし両者は笑顔で握手して別れ、トランプ氏は「交渉継続」を記者会見で表明しています。

 トランプ氏の念頭にあるのは、1986年の米ソ首脳会談(アイスランド・レイキャビク)ではないかとの指摘があります。
 当時のレーガン大統領とソ連ゴルバチョフ書記長による米ソ軍縮交渉が行われました。2日間にわたった両者の交渉は一度は決裂。その後ワシントンとモスクワでの2回の首脳会談を経て、中距離核戦力(INF)全廃条約として結実したのです。

 今後の展開、特に北朝鮮の動きに注目しましょう。