2026.10.07 17:00

共産主義の新しいカタチ 127
現代社会に忍び寄る“暴力によらざる革命”、「文化マルクス主義」とは一体何なのか?
国際勝共連合の機関紙『思想新聞』連載の「文化マルクス主義の群像〜共産主義の新しいカタチ〜」を毎週水曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部による加筆・修正あり)
管理・監視は悪で警察は敵か?
ミシェル・フーコー(上)②
防犯対策は不快で警察を敵視する異様さ
フーコーの権力論は『監獄の誕生』以降本格化します。その『監獄の誕生』を軸としたフーコー哲学の入門書が、重田園江・明治大教授の『ミシェル・フーコー 近代を裏から読む』(ちくま新書)。ネットの書評を見ると、「難解なフーコー思想を分かりやすく解説」などと肯定的な評価が多い。が、重田教授の「本音」には、聞き捨てならない言説が散見されます。
道で警察に職質されたら不快だ。……不審者対策と称して腕章をつけた親が通学路を見回るのはうんざりだ。自分たちは善良な市民で敵は外にいると言わんばかりの態度に腹が立つ。防犯カメラ作動中のシールを玄関に貼るのはやめてほしい。私は毎日のように、こうしたことを……不快に思っている。
そんなとき、『監獄の誕生』をはじめとしてフーコーが書いたものを読むと涙が出そうになる。……権力は人の相互行為を通じて、戦略的に作用する。そして日々新たに犯罪者とそうでない人の境界線を引きなおし、被害者意識を醸成し、安全への際限ない欲望を煽る。……それが政治的な戦略を通じて固定化された道徳、ルールだとするなら、別に正義でも何でもないのだから。それどころか、犯罪と刑罰の歴史、道徳の歴史とは不正と欺瞞の歴史なのだ。……たくさんの人が、『監獄の誕生』やフーコーの意地悪で秩序転覆的な権力観に触れて、警察の仕事とは市民を監視することだという事実に気づき、また不快に思うべきことを不快に思い続ける力と元気をフーコーから引き出してほしいと願っている。
こうした重田女史の認識がいかに独断的暴論か、具体例を挙げてみましょう。
2013年6月に起こった、東京・練馬区の小学校で、男子児童3人が首などを切りつけられ重軽傷を負いました。犯人の男は逃走し後に現行犯逮捕。下校時、ナイフで襲いかかる通り魔犯に児童を守るため交通安全の旗一本で立ち向かったのが、シルバー人材センターから派遣された交通安全指導員の男性(71)でした。
子供だけの下校で、もし交通安全指導員がいなかったら、児童の被害者はさらに広がったはずです。
また「オウム最後の逃亡犯」高橋克也容疑者の逮捕劇は、防犯カメラが決め手でした。「監視」あるいは「見守り」が、犯罪抑止や犯罪解決の決め手となるのは自明の理。ところがこうしたものは「正義漢ぶる者の論理を助長させるから必要ない」というのが重田女史の主張なのです。
上野千鶴子「お一人様」思想との共通点
このような議論は、自分たちは核の傘に守られどっぷりと平和を享受しながら、「日本の平和は憲法9条があったからで、軍隊は必要ない」と言うのと同じです。もちろん、軍隊や兵器がなければ人間が戦争で傷つくことがなくなると考えたくなる気持ちも理解できます。しかしそれは単なる願望で、同じ考えの人間ばかりではなく、無抵抗がかえって脅しやすいと考える者もいるのが現実です。
その意味でちょうど、上野千鶴子・東大名誉教授が「おひとり様万歳」と結婚(主婦)を敵視する背景に、自らの家族へのトラウマがあるのと同様に、重田教授もまた、「管理教育」で知られた愛知県の高校出身で、「管理」(という「権力の介入」)に対する強烈な怨恨感情を同書の中で図らずも吐露しているのです。
もっとも、フーコー自身の記述はもっと巧妙で用意周到。「おひとり様論争」で上野女史の歪(いび)つな家族観を指摘した内田樹氏は、主体性を礼賛するサルトルに抗し「主体の死」を説くフーコーはむしろ保守にさえ見えます。
J・ミラーの『ミシェル・フーコー/情熱と受苦』には同性愛者間で聖人視されるフーコーがいかに「快楽」を重視し、晩年に「窮屈な」フランス社会を避けより偏見の少ない米国西海岸のゲイ共同体がつぶさに語られます。今日の「同性婚」容認の潮流はある意味「フーコー思想の浸透」と見なせるのです。
こうしたフーコーの「素顔」暴露は卑しい中傷だとし「フーコー愛」に耽溺(たんでき)する重田女史は同書でまた、高まる緊急事態の議論をけん制し、非常時を想定することが「日常を非常事態に比してゆるんだものとみなし人々の頽廃を非難する」などと独善的暴論を吐きます。ならば、大地震・津波、窮迫不正の武力侵攻などの事態も「想定するな」となるのです。これは実はテロ行為を正当化する極左過激派の論調とそっくりです。
★「思想新聞」2026年8月15日号より★
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