2026.07.07 17:00

世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
中国の「民族団結進歩促進法」を施行と越境弾圧の可能性
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、6月29日から7月5日までを扱います。
この間、以下のような出来事がありました。
中国商務省、対日輸出規制拡大を発表(6月29日)。中国が「民族団結法」を施行(7月1日)。日印首脳会談、インド・ニューデリーで(2日)。ペルー大統領選、ケイコ・フジモリ氏当選(3日)。米国、建国250周年記念行事開催(4日)。イラン、ハメネイ師の国葬が執り行われる(4日)。中国艦船110隻が第一列島線周辺に展開(4日)。米露首脳が電話会談90分(4日)、などです。
7月1日、中国が「民族団結法」を施行しました。正式名称は「中華人民共和国民族団結進歩促進法」です。香港に国家安全維持法を施行した日も7月1日(2020年、日本時間)だったことを思い出しました。
この法律は今年3月の全人代(全国人民代表大会)で成立したものです。
法律の目的は第1条に記されています。
中華民族共同体意識の強固化であり、そのために民族団結進歩の促進を図るというものです。
習近平国家主席はかねてから、中華民族の偉大なる復興の実現を掲げ、「中国は一つの民族共同体である」という政治理念を掲げていましたが、初めて法律として固定化し定着させることが最大の特徴となります。
欧米との対立が深まる中、国家統合のイデオロギーを法的に強化する必要性があったのでしょう。
もう少し様子を見る必要がありますが、今後、中国・台湾の統一に向けていよいよ本格的に動き出そうとする号砲かもしれません。
施行直後、一つの事件が起きました。
7月2日、チベット人活動家のログバ・ランゼン氏(52歳)がニューヨークの国連本部前で焼身抗議を行ったのです。その後、死亡が確認されました。
詳細はまだ把握していませんが、ランッェン氏はチベットの独立を訴えたようです。
2009年以来、焼身者の数はチベット内外合わせて166人に上るといわれています。4年以上途絶えていた焼身抗議がまた起きてしまいました。
今回の焼身抗議の背景には、7月1日に中国で施行された「民族団結法」があると指摘されています。
第63条には、中国国内にとどまらず国外にいる個人や団体であっても、「民族の団結と進歩を損なう行為」や「民族分離主義を扇動する行為」を行った場合、法的責任を問われる可能性があると規定されているのです。どのような外形的な結果をもって現れるのかはまだ不明です。
さらに法律には、教育機関での中国語教育の推進や宗教団体に共産党の指導を徹底させる「宗教の中国化」なども盛り込まれており、少数民族への同化政策が強化されることは明白です。
チベットでは今、100万人を超える子供たちが親から切り離され、強制的に中国語での教育を受けさせられているといいます。チベット人のアイデンティティーを消滅させ、中国政府の支配に抵抗してきたチベット民族に対する国家の支配を強化するためなのです。
EU(欧州連合)や米国、台湾はこの法律の執行に対して重大な懸念を表明しています。それはこの法律が、海外にいる個人や団体まで対象にしているからなのです。
既述のように、第63条は中国本土外の組織や個人にも法律に基づく責任追及の余地を設けた条文です。中国では、本土外というと香港、マカオ、台湾そして「海外」を指します。
中国は本土外でこの法律を執行できるわけではないのですが、中国や中国と関係の深い第三国への渡航時などに圧力や拘束の根拠となるとして使われる懸念があるのです。
EUの報道官は声明を発表しました。
「われわれは、同法の域外適用について懸念を抱いている。EUは国際法に違反する第三国の法律の域外適用に反対する」とし、「われわれは、いかなる第三国に対しても、EU域内やその他の地域において、国境を超えた弾圧を行う試みを控えるよう求める」と記しています。
米国務省の報道官は、「米国は主権を守り、外国の政府や体制が米国内で個人に対し、沈黙を強いたり威嚇したり、嫌がらせを行ったり、危害を加えたり、あるいは強制したりしようとする越権行為から人々を守る」と表明しました。
そして何よりもこの新法は、特に中国が領有権を主張する台湾において、中国当局が「分離主義者」とみなす台湾人を追及するための新たな法的根拠を与えるものです。
台湾の対中政策を策定する大陸委員会は7月2日、政府が志を同じくする国々と協力し、「中国共産党の脅威に対抗する」と表明。「これは悪意ある越境弾圧を通じた威嚇と強要である」と訴えました。
しかし日本政府は、いまだ沈黙したままです。
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