青少年事情と教育を考える 50
虐待対策と家庭的養育環境

ナビゲーター:中田 孝誠

 前回、千葉県野田市で小学4年生の女の子(10)が父親(41)の虐待で死亡した事件を取り上げました。その後も、女の子が学校に出したアンケートのコピーを市教委が父親に渡していたことが明らかになるなど、行政の不手際が問題となっています。

 児童相談所の人員不足も大きな課題ですが、児童福祉司のような専門家を育てるには時間がかかります。そこで児童虐待相談は警察が対応し、虐待されている子の救出に当たるようにすべきという意見もあります。

 また、虐待への対策として児相と警察の連携強化が強調されています。ただ、犯罪捜査を行う警察と子供の保護や親への対応を行う児相の間の連携や情報共有は、実はそれほど簡単ではないという指摘もあります。

 その中で、進んでいると言われているのは高松市の実践(「高松方式」と呼ばれています)です。「CHILD FIRST」(子供の幸せ)を第一に家族関係の再構築や親の指導に取り組むというものです。

 厚生労働省の児童部会では、虐待を受けた子供や要保護児童が自分の意見を話せるよう、専門性を持った大人がそれを代弁する「アドボケイト制度」の導入を提案しています。
 この制度はイギリスなど海外で導入されて成果を上げていると言われています。ただ、例えば親に強く叱られただけで訴えるような、濫用されるようなことがないよう見極める必要があるでしょう。

 一方、今回の事件も含め、児童虐待事件には親権の問題が関係します。政府は、虐待などの事情で実の親と一緒に暮らすことができない子供はできるだけ家庭的な環境で育てるという方針で、施設ではなく養子縁組を進めようとしています。最近も特別養子縁組(法的に養親と子供が実の親子関係になる)の法改正の方針が出ています。

 家庭的な環境で養育されることが子供にとって重要であることは言うまでもありません。ただ、今回の親のようなケースもあります。子供の擁護、子供の最善の利益のためには、親への指導やケア、親への教育を一つの柱とする対策が必要ではないでしょうか。