世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

習氏、台湾政策演説―武力行使放棄せず

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 昨年12月31日から今年1月6日までを振り返ります。

 この間、次のような出来事がありました。
 マティス米国防長官が退任し、代行(シャナハン氏)が引き継ぐ(2018年12月31日)。習近平主席、台湾政策に関する包括的演説を行う(2019年1月2日)。台湾・蔡英文総統、習近平主席が演説で呼び掛けた「一国二制度」について「台湾は絶対に受け入れない」と拒否(2日)。日韓外相電話会談、両国の諸問題「早期解決」で一致(4日)。習近平主席、軍事闘争準備を指示(中央軍事委員会の軍事工作会議で)。米国との対立を念頭に危機感(4日)、などです。

 今回は、中国と台湾との関係を取り上げます。

 「台湾問題」は、2020年が焦点となります。江沢民元主席はかつて、「2020年までに台湾統一を」と繰り返し述べていました(元防衛省幹部)。

 1月2日、習近平主席は北京・人民大会堂で、台湾政策に関する包括的演説を行っています。その中で「台湾問題は中国の内政問題。いかなる外部勢力の干渉も許さない」と強調。名指しを避けながらも米国をけん制した内容となっていました。

 習氏の演説は、中国が台湾に平和統一を呼び掛けた「台湾同胞に告げる書」の発表40年を記念して開かれた会合でなされたものです。
 「台湾同胞に告げる書」は1979年の元旦、全国人民代表大会〈全人代〉常務委員会が発表したもので、祖国の平和統一を目指す大方針を示したのです。

 習氏は「一つの中国」原則の堅持など5項目の対台湾方針を提案しました。

① 平和統一の目標は維持
② 武力行使を放棄することは承諾しない
③ 香港などに「高度な自治」を保障した「一国二制度」を台湾に適用する
④ 台湾の政党や各界の代表者との将来の中台関係に関する協議を呼び掛ける
⑤ インフラ面での中台協力を進める
 という内容です。

 同日、台湾・蔡英文総統は緊急記者会見を開きました。
 そこで「台湾は一国二制度を絶対に受け入れない」と強く反発する談話を発表しました。

 さらに5日、総統府で外国メディアの取材に応じて、「台湾の核心的利益と衝突し、台湾人は絶対に受け入れられない」と習氏の演説を厳しく批判したのです。

 蔡氏は、「台湾の核心的利益」について、①中華民国・台湾が存在するという事実 ②台湾の民主体制、の二つを挙げました。習氏の演説はこれらを無視し、破壊するものだと指摘したのです。
 2020年に向かい、中台の対立は深刻化するでしょう。

 マティス米国防長官の辞任により、トランプ大統領がより強い対中姿勢を打ち出してくるのではとの懸念が大きくなっています。中国の強い姿勢は、その点も影響しているとみられています。