世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

習近平主席、対日「情報戦」を開始

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、1124日から30日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 米中首脳による電話会談行われる(1124日)。日米首脳による電話会談行われる(25日)。米国が提示の和平案をウクライナ側が基本合意(25日)。頼清徳総統、防衛費8年間で6.2兆円の特別予算計上を公表(26日)。東京高裁、同性婚否定「合憲」判断(28日)。トランプ氏、ベネズエラに圧力強化で大統領に退陣求める(29日)、などです。

 トランプ大統領と習金平主席が1124日夜、電話会談を行ったと新華社通信が報道しました。
 会談の中で習氏は、統一を目指す台湾について「台湾の中国への返還は、戦後の国際秩序の重要な構成要素だ」と主張したといいます。

 しかし戦後国際秩序の重要な構成要素は中華民国であって、中華人民共和国ではありませんでした。そして中華民国・台湾は中華人民共和国の領土であったことも統治を受けたこともありません。
 習氏の発言は単なる中国側の主張に過ぎず、国連の基本的主張ではないのです。

  習氏はさらに、「中米はかつて共にファシズムや軍国主義と戦った。今、さらに第2次世界大戦の勝利と成果を守るために協力すべきだ」と呼びかけたといいます。
 しかし戦ったのは中華民国・国民党軍であって、共産党の人民解放軍ではありません。

 会談でトランプ氏は、「米国は中国にとっての台湾問題の重要性を理解している」と応じたといいます。
 中国外務省は、習氏が台湾問題に関する「中国の原則的な立場」を伝えたといいますが、トランプ氏は会談後、米中関係は「極めて強固だ」とSNSに投稿し、来年中に、習氏を国賓として米国に招待することを明らかにしただけであって、台湾問題には触れていないのです。

 このたびの米中首脳電話会談は中国側が働きかけたものでした(中国側は米国側が要請したものしているが、違います)。

 翌25日、今度は日米首脳が電話会談を行いました。
 そこでトランプ氏は、24日の米中電話会談を含む最近の米中関係について説明したといいます。この会談はトランプ氏からの呼びかけでした。約25分間でした。

 今回の日米首脳電話会談は、「トランプ氏が連絡したいと言っている」という連絡により実現しました。
 この申し出まで、日本側には、日中対立と距離を置くかのようなトランプ氏の態度に気をもむ向きがありましたが、トランプ氏の強い要望で実現したのです。

 そしてトランプ氏は首相に、「私とは極めて親しい友人であり、いつでも電話をしてきてほしい」と改めて伝えたのです。
 同席した政府高官は、「米中首脳会談途にこちらから電話しようと思っていたのに、トランプ氏が電話をくれた。習氏との会談後、首相の顔がすぐに思い浮かんだのに間違いない。会談もすごく良い雰囲気だった」と振り返りました。

 日米同盟の強化、インド太平洋地域情勢、トランプ氏が参加を見送ったG20首脳会議についてなどが話題となっています。
 この会談では、日中関係に深入りすることなく、トランプ氏も米中首脳会談の全体像も明かさなかったといいます。まさに阿吽(あうん)の呼吸というものです。

 中国・習近平氏は対日「情報戦」を展開しています。
 11月21日、中国の傅聡国連大使がグテレス国連事務総長に対して、日本が「台湾問題で武力介入を企む野心を初めて表明した」と主張する書簡を送付しています。

 さらに在日本中国大使館は同日、日本など第2次世界大戦の敗戦国に対しては国連憲章の「旧敵国条項」の規定に基づき、中国などは「安全保障理事会の許可を要することなく、直接軍事行動を取る権利を有する」とXに投稿したのです。波状攻撃です。

 日本側も素早く反論しています。山崎和之国連大使はグテレス氏に書簡を送り、「武力攻撃が発生していないにもかかわらず、日本が自衛権を行使するかのごとき中国側の主張は誤っている」と主張。さらに外務省はXで、旧敵国条項はすでに1995年の国連総会で死文化したとする決議が採択されていることを明示し、「死文化した規定がいまだに有効であるかのような発信は、国連において既に行われた判断と相いれない」と訴えました。

 「情報戦」が激しさを増していますが、根拠なき主張に、中国側の弱さと焦りを見ることができます。



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