2025.11.19 17:00

共産主義の新しいカタチ 87
現代社会に忍び寄る“暴力によらざる革命”、「文化マルクス主義」とは一体何なのか?
国際勝共連合の機関紙『思想新聞』連載の「文化マルクス主義の群像〜共産主義の新しいカタチ〜」を毎週水曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部による加筆・修正あり)
テクスト論とオープンソースの衝撃
ロラン・バルト(下)②
水道哲学と対極にあるウィンドウズ
ウィンドウズというOSブランドをパソコンの「デファクトスタンダード」(事実上の世界標準)に仕立て上げたマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は世界一の大富豪となりましたが、リナックスの創始者リーナス・トーヴァルズ氏(下)は、そのような道を拒絶し、「オープンソースのカリスマ」として「尊敬される名誉」を選んだとするのが内田樹氏の見立てです。

ただし、これをもって「だから資本主義=悪なのだ」という単純な図式に陥ってはいけません。ウィンドウズが莫大なコスト(開発費や人件費)をかけているから「価値がある」のであり、リナックスは開発者が手弁当でやっているから「価値がない」という論理はあてはまりません。
開発者に報酬という対価が与えられるか、「趣味」ないしは「奉仕」(ボランティア)として開発に携わるかは、労働価値説では説明できません。リナックスの開発者はプログラム開発を「強制」されているわけでも、「契約労働」しているわけでもありません。
むしろ松下幸之助の「水道哲学」のようなものに近いかもしれません。ITというインフラを水を飲むように当たり前のものにする、という使命感のほうが近いわけです。マイクロソフトのウィンドウズは確かにPCやインターネットを全世界の人々にとって身近なものにした、とは言えます。
ところが、マイクロソフトは水のように安価にすることによって大量生産するという「水道哲学」の発想とは全く異なります。独占ないし寡占状態をまずつくり出し、大量生産して価格を抑えることもせず、一貫して自らが価格の生殺与奪を握りました。
古いバージョンについて無料にするといった戦略もなく、ただ新しいハード(PC)には新しいOSを搭載させるべくPCベンダー(製造メーカー)各社に、日本ではリナックス搭載PCを発売しないよう「囲い込み」を図ったのです。それは企業として当然のことなのかもしれませんが、まさに「水道哲学」とは対極にある企業思想と呼んでかまわないでしょう。
確かに、リナックスは当初、コマンドが複雑でウィンドウズやマックOSのようにマウスで視覚的直感的に操作できるGUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェイス)環境ではありませんでしたが、その後、恐るべき進化を遂げGUI環境ではウィンドウズを凌(しの)ぐほどになりました。
共産主義体制下では生まれない理由
重要な点は、こうしたリナックスなどの「オープンソース」のソフトウェアは、社会主義体制下では、決して生まれない、ということです。なぜでしょうか。
それは、まったくのフリーウェア(無料ソフト)にするのも、マイクロソフトに対抗しウィンドウズと拮抗した有料OSとするのも、まったく作者の「自由意思」に基づいているからです。
資本主義という経済活動が自由な発想と意志が保障され尊重されて初めて効力を発揮するものであり、「ボランティア」とはもともと「自発的な」の意味を持っているように、自発性のない社会は、カール・ポパーも指摘するように、「全体主義への道」であり、「開かれた社会の敵」と断じても構わないでしょう。
だからこそ、キリスト教などの宗教的な社会規範をバックボーンに持つ文化では、資産家などによる慈善活動のボランティアや寄付行為が珍しくないのです。
ロラン・バルトは確かに、従来のマルクス主義が階級闘争を措定し、打倒すべきだとした資本主義の後に到来すると見た「終局形態」としての「オープンソース」のような考え方を予見していたのかもしれません(「作者の死」と「テクスト論」)。
しかし実際には、マルクスの時代には思いもよらなかった事態が展開しているのが現代なのです。
ではリナックスなどのオープンソースは、まったくのボランティア事業なのでしょうか。ビジネスモデルとしては成立し得ないものなのでしょうか。確かに、オープンソースそのものは「無償公開」が原則であり、「コピーライト(著作権)」に対抗して「コピーレフト」と称したりもします。
ですが、その答えは「否」です。つまり「オープンソース」から派生し、別の付加価値が加えられたものは、実際、商業ベースに乗っていたりするのです(前述のクロームブックやアンドロイドのスマホなど)。
例えば、日本語ワープロソフトのシェアは、かつてはジャストシステムの「一太郎」の独壇場でした。NECのパソコンがまだ「PC-98」と呼ばれていた時代のことです。もともとMac向けのビジネスソフトとして登場した「ワード」(表計算では「エクセル」)はウィンドウズ95以降、次第に形勢が逆転し、今や世界標準となりました。
(続く)
★「思想新聞」2025年11月1日号より★
ウェブサイト掲載ページはコチラ
【勝共情報】
国際勝共連合 街頭演説「第二のゾルゲの暗躍を許すな!」2025年11月3日 渋谷駅