2025.10.06 22:00

facts_3分で社会を読み解く 88
ニューヨークで行われた信教の自由に関する国際会議(8)
家庭連合への「解散命令」の動きは政治的なもの?
ナビゲーター:魚谷 俊輔
去る8月1日から3日にかけて、米国・ニューヨーク市において、「宗教の自由に対する現代の脅威の根本原因を評価する」をテーマとする、第3回HJI平和と公共リーダーシップ会議が開催された(「HIJ」とはHJ平和・公共リーダーシップ国際大学院のことで、かつての統一神学大学院を指します)。
この会議の日本に関するセッションで筆者は、「日本における反統一教会運動」と題するプレゼンを行った。
今回もその内容の続きである。
このプレゼンの最後のテーマは、なぜ今になって家庭連合に対する解散命令が出されたのかに関する分析である。
その直接的な原因は、2022年7月8日に起きた安倍晋三元首相暗殺事件と、それが引き起こしたパニックである。
そこに至るには歴史的な背景があり、最も重要な要因は冷戦の終焉(しゅうえん)であった。
島田裕巳氏の分析によれば、統一教会は冷戦時代の宗教であり、世界に起きる出来事を神の側とサタンの側の対決であると捉え、共産主義をサタンの側であると解釈する統一教会の神学は、冷戦時代には説得力があった。
しかし1991年にソ連が解体され、冷戦構造が終わりを迎えると、自民党を含む保守勢力にとって、勝共連合と統一教会の存在意義は相対的に低下したと島田氏は見る。
勝共連合は自民党の中でも保守的な派閥である「清和会」(安倍派)と密接な関係にあったが、安倍氏が暗殺された時に首相であった岸田氏の所属していた「宏池会」は自民党の中でもリベラルな派閥であり、「清和会」とは歴史的に党内のライバル関係にあった。
ある自民党所属の地方議員は、岸田首相が統一教会と関係断絶を宣言し、解散命令にまで持っていった動機を以下のように分析している。
「安倍氏が銃弾に倒れた時、確かに岸田首相はショックを受け、残念だと思ったであろう。しかし他方で、『これで安倍派の影響力を削(そ)ぐことができる。あわよくば安倍派を消滅させてしまって、自分のところで相当数取り込むことができる。あるいは安倍派を弱体化できる』と勘違いして、特に家庭連合と関係の深かった安倍派の政治家の力を削ごうとしたのではないかと思っている」(『統一教会の「解散命令」に異議あり』中山達樹編 グッドタイム出版 2025年、88~89ページ)
歴史的な統一教会反対運動には、宗教的動機、イデオロギー的動機、親子関係などの複雑な要因が絡み合ってきた。
しかしながら、こうした反対運動そのものが統一教会の解散を実現したのではない。純粋な法理によれば、統一教会を解散させる根拠はない。
安倍晋三元首相暗殺事件以降の解散命令への動きの主な要因は、政治的なものであった。
そして自民党政府が統一教会を解散させるという決断をした背景には、安倍氏が死んで彼の派閥が大きく衰退することにより、自民党自身が変質し、左傾化してしまったという事情がある。