2025.07.16 22:00
スマホで立ち読み Vol.38
『“人さらい”からの脱出』14
小出浩久・著
スマホで立ち読み第38弾、『“人さらい”からの脱出』を毎週水曜日(予定)にお届けします。
2年間にわたる拉致監禁後、「反統一教会グループ」の一員として活動した経験のある筆者。そんな筆者が明らかにする、「脱会説得」の恐ろしい真実とは。
今回は、前回の続きからお届けします。
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第1章 15カ月間の監禁生活
三、東京のマンションでの説得⑥
何日間も私が聖書に没頭している姿を見た家族は、突然こんな要求をしてきた。
「“統一教会の行っている霊感商法”について説明してみろ」というのである。しかも、家族が納得するまで、というのである。その場の雰囲気で、私は断ることができなかった。
私は、まず「マスコミなどは、『霊感商法』は統一教会が組織的にやっているなんて報道しているがそんなことは絶対ない。自分も周りの人も、教会から指示をされてそんなことをやったことはない。もし信者でかかわっている人がいても、その人たちがその活動の価値を自主的に認めた上で、自発的に取り組んでいるはずだ」と説明した。
そして、「『霊感商法』という呼び名自体、日本共産党が勝手につけたもので、そんな商法は存在しない。統一教会を批判する人たちの情報をもとに、教会員の自発的活動を教会組織が命令し強制的にやらせているようにすり替えて報道して社会問題化させているだけだ」と、再三強調した。
しかし家族は、「統一教会が霊感商法をやっている」というマスコミの報道や統一教会反対派の主張を頭から信じており、頑として私の説明を認めようとはしなかった。それは揺るぎなき信念のようであった。
両親がそういう思い込みをするのも当然のことであった。なぜなら、マスコミが、特にテレビのワイドショーが統一教会と霊感商法を何とかして結びつけようと、あることないこと無責任な報道を連日、執拗(しつよう)に放送していたのを見ていたことと、また、宮村氏らの勉強会で、拉致・監禁という形で統一教会を脱会した元信者のほとんどが「統一教会によって、自分は霊感商法をやらされた」と主張し、両親にもそう説明しているからだ。
彼らは、拉致・監禁され説得を受ける中で、そういう思考方法を植え付けられたのであろう。ただ彼らが統一教会の信仰をもっていた時点でどれくらい「神様に愛と喜びを返していきたい」という願い、さらに、多くの人々にすばらしい人生、幸せな人生を送ってもらいたいという想いから活動していたかが問われる。その想いが活動の原点でなければならない、と思う。
宗教的活動をしながら、様々な体験をしつつ、神様の願いを自ら悟ってゆければ、良かったであろう。
私は、家族のその信念が誤りであることを分かってもらうため、文鮮明(ムン・ソンミョン)師の提唱する統一運動の中には、宗教の分野ばかりでなく、政治の分野、経済の分野、さらに芸術、科学、医療などさまざまな分野があることを説明した。
そしてその統一運動は、文鮮明師が説く統一原理の理念に基づいてなされているが、その個々の運動と推進する母体はそれぞれ独立していることも話した。また、それを納得するためには、統一原理全体をある程度理解することが必要である、と訴えた。
しかし家族は、「我々は霊感商法について説明してほしいだけで、統一原理など知りたくもない」と、統一原理を学ぶことを拒否した。
私が「統一原理を学ばなければ説明できない」と再三訴え、ようやく説明を始めることができた。
ところが、いくら統一原理を説明したところで、家族の心にはすでに「統一教会はすべて社会悪」「霊感商法は犯罪行為」という“信念”が居座り、冷静に私の話を聞くことができず、話はなかなか進まなかった。
家族たちは「統一原理」の最初の部分である創造原理の陽陰の二性性相のところで、早々につまずいてしまう。私が「被造世界は、人間が男性と女性、動物が雄と雌、植物が雄しべと雌しべといったようにすべてが陽陰からなっている」と説明すると「本当にすべてがそうなのか? そうじゃないのもあるんじゃないか」と追及され、私もその弁明に必死になってしまった。
落ち着いて自分の分かっている範囲で、ゆっくりと説明すれば何でもなかったことを、この時はすっかりあわててしまっていた。
実は、この質問は家族が自分で考えたのではなく、反統一教会活動家の急先鋒の一人、浅見定雄東北学院大学教授の著書の受け売りのようなものだったのだが……。
講義は、しばしば言い争いの場となった。それは理論の争いから、やがて感情のぶつけ合いに展開した。ある時などは、講義を聞いていた父が感情をたかぶらせ、突然、私に殴る、蹴るの暴行を加えてきた。
ある晩など、家族は私を取り囲み、文鮮明師ご夫妻の写真を取り上げ、「この白ブタめ! こいつが悪いんだ」などと叫びながら、私を殴った。母は「こいつめ、こいつめ」とその写真を殴っていた。
やがて父が興奮し、私の顔面に膝蹴りをいれてきた。その時は、弟は驚いてしまい、後で「お父さん、本当に殺しちゃうんじゃないかと思ったよ。お父さん危ないよ……」というほどの迫力であった。
その時に私の顔にできたあざは一週間以上残っていた。
監禁されても私が落ち着いているので、父や弟の精神状態が不安定になっていることは明らかであった。
私は毎朝その顔のあざを見て、みじめな思いになったが、反面、不思議にも誇らしい気持ちにもなった。
この家族の異常な言動、行動を目の当たりにした私は、「統一教会はすべて社会悪」とのその“信念”や行動が、統一教会の活動を実際に知って生まれてきたものではなくて、むしろ強烈な憎しみや恨み、不安などの感情に裏打ちされたものであることを知ることができた。
家族の異常な言動と行動は、かえって統一原理に対する私の確信を強め、この後2年間も続く特殊な環境を耐え抜くための“支え”とさえなったのであった。
家族との話し合いが平行線になったことを感じた私は、7月8日から断食を始めた。そして、祈り求めた。
(続く)
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次回は、「東京のマンションでの説得⑦」をお届けします。