2025.06.29 22:00
ダーウィニズムを超えて 117
アプリで読む光言社書籍シリーズとして「ダーウィニズムを超えて」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。
統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著
第九章 科学時代の新しい神観
(一)科学時代における神の再発見
(3)無神論を超えて
3. 物質と力の究極の探求
古代ギリシャにおいて、哲学者たちは万物の根源、アルケーを追求した。タレス(Thalēs, ca.624~546 B.C.)は水、アナクシマンドロス(Anaximandros, ca.610~547 B.C.)はアペイロン(apeiron, 無限定なもの)、アナクシメネス(Anaximenēs, ca.585~528 B.C.)は空気、ヘラクレイトス(Hērakleitos, ca.535~475 B.C.)は火であると説いた。エンペドクレス(Empedoklēs, ca.490~430 B.C.)は火、水、土、空気の四元素から成るという四元素説を説いた。さらにデモクリトス(Dēmokritos, ca.460~370 B.C.)は、それ以上分割できない根本的な粒子、すなわちアトム(原子)の離合集散によって万物はできていると説いた。
万物の根源の追求は、19世紀を迎えて、科学の急速な発展とともに、飛躍的な進展を遂げた。そして今日の物理学によれば、物質はすべて分子からできており、分子は原子から、原子は素粒子からできていることが明らかになった。さらに最も根源的な粒子クォークの存在が明らかにされるに至った。さらに粒子はエネルギーから生じていると考えられているのである。
現代の物理学の成果によれば、デモクリトスの言う究極の「アトム」に相当するのは十二の粒子、すなわち六つのクォーク(アップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトム)と六つのレプトン(電子、電子ニュートリ、ミュー粒子、ミューニュートリノ、タウ粒子、タウニュートリノ)である。
一方、物理学者たちは自然界に働く力に関しても探求してきた。ニュートン(Newton, 1642~1727)は地球上の万物間に働く力と宇宙の星の間に働いている力が同じ力、すなわち万有引力(重力)であることを明らかにした。エルステッド(Oersted, 1777~1851)とファラデー(Faraday, 1791~1867)とマックスウエル(Maxwell, 1831~79)によって、電気の力と磁気の力が一つの電磁力の現れであることが明らかにされた。そして20世紀に至り、原子の中に作用している二つの力、すなわち強い力と弱い力が発見された。強い力とは、クォークとクォークを結びつけて陽子や中性子をつくり、陽子と中性子をまとめて原子核をつくる力である。そして弱い力とは、原子核を崩壊させるときに働く力である。そのようにして、自然界には、①重力、②電磁力、③強い力、④弱い力の四つの力があることが明らかになったのである。
エルステッドは自然のあらゆる力は一つの根源的な力が姿を変えて現れているのだと考えて、電気と磁気の関連性について研究を進めたのであり、やがてマックスウエルによって電磁力として統一された。アインシュタイン(Einstein, 1879~1955)も自然の根源的な力は一つであるという信念に導かれて統一理論の実現を目指したが、結局、成しえなかった。その後も物理学者たちは力の統一を目指してきた。1968年にワインバーグ、サラム、グラショウにより電磁力と弱い力が統一され、電弱力としてまとめられた。さらに電弱力に強い力を加えて、素粒子に働いている三つの基本力をすべて統一しようという「大統一理論」(GUT)が試みられており、最終的には重力を加えた四つの力の統一を目指す「万物理論」(TOE)に向かっているのである。
そのように科学者たちはあらゆる自然の力の背後には根源的な一つの力があると考えているが、力のみならず物質を構成する素粒子も究極的には一つのものであるという方向に導かれている。さらに粒子と力も究極的には一つになっていると考えられている。粒子と力が一つになっている究極の世界はまさしく神の世界——力の強き神(イザヤ40・26)——にほかならない。
レオン・レーダーマン(Leon Lederman)は『神がつくった究極の素粒子』の中で次のように説明している。初めに、神のもとにあっては、「素粒子一種と力一種の世界であり、力は一つのメッセンジャーによって媒介された(*6)」。そこにヒッグス場が働くことにより、「以前はたった一つしかなかった素粒子がやがて一二になり、かつてはメッセンジャーと素粒子が同じだった[一つになっていた]のが、いまや別のものになり、かつては力の媒介者も力も一つずつしかなかったが、いまや力の媒介者は一二、力は四つになった(*7)」。そして原子、分子がつくられ、多様な万物世界がつくられたのである。ヒッグス場において働いているのがヒッグス粒子(ヒッグスボソン)であり、レーダーマンはそれを「神の素粒子」と呼んでいる。
現代物理学における「超ひも理論」も統一された世界に迫ろうとするものである。それはすべての物質とエネルギーは十次元宇宙の中で振動する超ミクロなひもに還元できるとする理論である。そのひもがあらゆる物質と力、そして空間と時間を生み出す根源的な要素であるという。超ひも理論も神の世界に迫ろうとするものである。
*6 レオン・レーダーマン、高橋健次訳『神がつくった究極の素粒子』草思社、1997年、下巻230頁。
*7 同上、下巻230~231頁。
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次回は、「無神論を超えて④ 生命の起源について」をお届けします。