世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

3年で北方領土返還・日ロ平和条約締結を

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 11月12日から18日を振り返ります。

 この間、次のような出来事がありました。
 安倍首相、ペンス副大統領と会談(11月13日)。ASEAN首脳会議開幕(11月14日)。日ロ首脳、平和条約交渉加速で「合意」(14日)。APEC首脳会議開幕(17日、18日まで)、などです。

 今回は、日ロ関係を扱います。
 安倍首相とプーチン大統領は11月14日、シンガポールで23回目の首脳会談を行いました。そこで、今後3年以内に日ロ両国が、1956年の「日ソ共同宣言」を基礎にして平和条約を締結することを合意したのです。

 「56年宣言」の第9条には次のようにあります。
 <ソヴィエト社会主義共和国連邦は、・・・・・・、歯舞(はぼまい)群島及び色丹(しこたん)島を日本国に引き渡すことに同意する。ただしこれらの諸国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結されたのちに現実に引き渡されるものとする>

 しかし1960年、岸信介首相(当時)が日米安保条約を改定したことで、ソ連は猛反発。その後ソ連は、領土問題は基本的に解決済みを主張し、日本は北方領土の即時・一括返還を要求して膠着(こうちゃく)状態に陥ってしまったのです。

 動き出したのは冷戦終焉(しゅうえん)後でした。1993年の東京宣言(四島を交渉対象に)、97年のクラスノヤルスク宣言(2000年までに平和条約の締結)、2001年のイルクーツク声明(「56年宣言」が交渉の出発点)、16年の四島での「共同経済活動」協議入り合意などが公表されました。

 このたびの合意は、「入り口論から出口論への転換」です。四島返還を「出口」に置いて、二島返還を先行させるのです。
 元島民の平均年齢は83歳。北方四島には1万数千人のロシア国民が居住しているという現実を踏まえてのリスクの伴う決断でした。

 立ちはだかる「壁」があります。ロシアにとっては米軍の存在です。返還された北方領土に日米安保条約が適用されることによる懸念です。安倍氏は、日米安保に基づいて米軍基地を島に置くことはないと伝えていたことが分かっていますが、プーチン氏の揺さぶりも始まっています。「歯舞群島と色丹島の主権問題も今後の協議で」と述べているのです。

 今後、両首脳の詰めの協議が連続的に持たれていきます。11月30日からアルゼンチンで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議と並行しての協議。来年1月に安倍氏が訪ロして協議。そして来年6月の大筋合意を目指します。

 安倍氏の戦略的決断を支持します。