青少年事情と教育を考える 37
いじめ被害の後遺症

ナビゲーター:中田 孝誠

 先週、文部科学省から、学校でのいじめが急増したという調査結果が公表されました。

 昨年度(2017年度)、全国の小・中・高校と特別支援学校で確認した、いじめの認知件数(学校が把握できた件数)は41万4378件でした。前年度(32万3143件)に比べて9万件以上増えました。
 いじめを確認した学校は全体の4分の3に当たる2万7822校で、前年度より2000校余り増えています。

 増加した原因は、いじめの定義が変更され、被害に遭った子供が精神的苦痛を感じているかどうか、子供の立場に立って判断するようになったことがあります。けんかやふざけ合いなどでも、いじめの可能性を確認するようになっています。また、「発生件数」ではなく「認知件数」として計算しているのも、いじめはどの学校にも起こり得るもので、全て把握するのは難しいという前提に立って、隠すことなく積極的に把握して対応するためだとされています。

 ただ、これまでもいじめの重大事件がある度に報告件数が増加し、しばらくすると減少するということを繰り返し、統計の信頼性が疑問視されていたことも確かです。いじめの社会的影響と具体的対策を考える上で、より正確なデータをまとめる必要があります。

 一方、いじめを受けた被害者が、社会に出た後も長期に渡って後遺症に苦しんでいるという研究があります。

 東京大学准教授の滝沢龍氏は海外の専門家との共同研究で、イギリスで子供の時にいじめを受けた人を追跡調査しました。すると、いじめを受けた人は、受けなかった人に比べて、うつ病になるリスクや不安障害、自殺願望が約2倍に高まっていました。しかもそれが若い頃だけにとどまらず、50歳頃まで続いているというのです。

 対人関係が希薄になったり、心身の健康に問題を抱えたり、人生の満足度に重大な影響が出ているわけです。そうなると、いじめ被害によって50代までの社会的コスト(雇用や健康サービス、貯蓄など)にも大きな影響を与えます。社会的に見ても、いじめによる損失が重大だというわけです。
 それでも、安全で温かい人間関係があると、そうした悪影響が緩和されるというデータも出ているそうです(同氏の研究室ウェブサイトより)。

 確かに、いじめは簡単にはなくなりません。しかし被害者やその家族にとって重大な問題です。学校教育(道徳授業)、法的対応など、さまざまな対策が必要ですが、その中で家族(親兄弟)をはじめ「温かい人間関係」を取り戻すことにも大きな鍵がありそうです。