ダーウィニズムを超えて 52

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 生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
 そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。

統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著

(光言社・刊『ダーウィニズムを超えて科学の統一をめざして』〈2018520日初版発行〉より)

五章 心と脳に関する新しい見解

(四)認識はいかになされるか

3)原型の起源
 それでは、いかにして原型はわれわれの心の中に形成されるのであろうか。原型の起源として次の四つが考えられる。

①人体に対応するもの
②自然界(万物世界)から来たもの
③文化から学習によって得たもの
④神の啓示、霊界からのインスピレーションによるもの

 統一思想から見るとき、宇宙には神の性相に由来する宇宙意識が作用している。この宇宙意識が生物体の細胞や組織に入ると「原意識」となる。その原意識が細胞や組織の構造、特性などを感知する。その感知した内容が「原映像」である。細胞と細胞の相互作用の形式は「形式像」として原意識に反映される。この原映像と形式像が脳において総合されたものが、すなわち人間が生まれながらにしてもっている「原型」なのである。人体は万物の総合実体相であり、すべての万物の構造、要素、素性をことごとく圧縮して備えている。したがって、原型は人体に対応するものであると同時に、自然界(万物)に対応するものとなっているのである。

 人体がわれわれの心に原型を与えているということは、現代の代表的な神経科学者であるアントニオ・ダマシオ(Antonio R. Damasio)も論じているところである。彼は「身体は脳の表象に対する基本的な話題を提供している」、「魂は身体を通して息づく」と言い、そのことを理解することによって「われわれがまわりの世界を知っているのはどうしてか」という問題が解明されるかもしれないと言う(*22)。

 ダマシオは、われわれが外界の状況を認識し、それに対処しようとするとき、身体が判断基準となっていると、次のように説明している。

 本書の第三番目の話題。それは、脳の中に表象される身体が、われわれが心として経験している神経的プロセスに対する不可欠な基準を構成しているということ。ある絶対的な外界のリアリティではなく、人間の有機体そのものが外界の構築に対する——そして人間の経験の本質であり、つねに現在のような感覚をもつ主観性の構築に対する——基準として使われているということ。われわれの最も洗練された思考、最善の行動、最高の喜び、最大の悲しみ。それらは身体を判断基準に使っている(*23)。(ゴシックは引用者)

 こういうやり方で機能するために脳がしなければならないことは、脳と身体の調節に関するかなりの「生得的知識」を携えて外の世界に入っていくことだ。そうやって実在や状況との相互作用の指示的表象を取り込むにつれ、脳は、有機体の生存に直接関わるかもしれない実存や状況をその中に含める機会を増やしていく。そしてこうしたことが起こると、外界がどのようなものであるかについてのわれわれの分別が、身体と脳が相互作用する神経的空間に「変化」として固定される。………心はまさに身体に統合(embodied)されているのであり、ただ「脳化」(embrained)されているだけではない(*24)。(ゴシックは引用者)

 宇宙意識が細胞や組織に入って、人体の構造や特性を読み取るということは、次のようにも考えられる。すなわち、宇宙意識が細胞に入って原意識になると、細胞のDNAの遺伝暗号を解読する。そして原意識はその暗号の指示に従って、細胞や組織を活動せしめるのである。原意識がDNAの暗号を解読するということは、神の言(ことば/ロゴス)、すなわち設計図(人体の設計図)を解読するということである。結局、われわれの心は無意識のうちに、神の言すなわち設計図から来る概念や観念を受け取っているということになるのである。

 原型は性相的なものであるが、それに相対する脳という形状的な基盤が必要である。それがニューロンのネットワークである。先天的原型を担っているのは、自然に形成されるニューロンのネットワークである。

 小児神経学者ハリー・チュガニ(Harry Chugani)は、「誕生以前、脳でどのような結合パターン〔ネットワーク〕が確立されるかを方向づける役割は、遺伝子が担っている(*25)」と言う。遺伝子は人体の構造の設計図を有している。したがって、脳は人体の構造に対応できるように造られているのである。言い換えれば、人体の設計図に対応する原型が幼児の心の中に、自然に形成されるのである。

 人間が生まれながらもっている先天的な原型は、出生直後の幼児の場合、身体や脳の未発達のために、まだ不完全であり、したがって認識は不明瞭なものとならざるをえない。しかし幼児が成長するにしたがって、身体と脳の発達に伴って、原型は次第に発達し、それによって認識も明瞭になってくるのである。

 このような先天的な原型を基礎としながら後天的な原型が築かれる。人体は万物の総合実体相であるから、われわれが人体に関する原型を有するということは、すべての万物に対応する原型を形成しうる可能性をもっているということである。したがって、われわれは自然界を観察し、自然界に働きかけて万物に関する知識を得ることができるのである。また家庭、学校、社会において、学習を通じて、既存の原型を組み合わせながら、新しい知識を得ていくこともできるのである。

 ダマシオによれば、先天的な知識(原型)の基盤は、視床下部、脳幹、辺縁系における指示的表象にあり、後天的な知識(原型)の基盤は高次の皮質における指示的表象と、皮質の下にある灰白質(かいはくしつ)の多くの核の指示的表象にあるという。そして「人はその知識を想起し、運動や推論や計画や創造活動に使う。………新しい知識の獲得は、そのような指示的表象の連続的な修正によってなされる(*26)」という。

 その他、原型には神から来る啓示、霊界から来るインスピレーションなどがある。科学者の発見、芸術家の創作などにおいて、そのような例があったことはよく知られている事実である。

 カール・ユングは、人類に共通する集団的無意識の存在を提唱し、その中に「元型」(archetype)と彼が呼んだある種の基本的な思考パターン、イメージが宿っていると考えた。そして彼は「私たちはそれぞれ、この内なる世界から夢や直観のひらめきによってメッセージを受け取る」と言い、「この集団的無意識の中に、神と、神が実現のために人間の協力を必要とするものが宿っていると確信するようになった(*27)」のである。

 アーナ・ウィラーは、地球を取りまいている意識の場の存在を仮定し、それを惑星心場という。そして、そこからわれわれ人類にメッセージが送られてくるという。彼は次のように述べている。

 心場が何十億という個人のチャンネルに「概念の波」を送る時、非常に少数ながらその概念を受信できる状態の個人もいると期待される。その波を受信した人間は直観的飛躍をし、それによって自分たちの文化の場を豊かなものにする(*28)。

 惑星心場は、私たち一人一人の潜在意識を通して情報場の一部を伝達しながら、この試みを行っている。私たち人間の世界に、道徳、宗教、科学の「概念」が出現したことで、すでに人間の世界は劇的に、しかも善い方向へと変わってきた(*29)。

 ウィラーは地球を取り巻いている意識としての惑星意識について論じているが、統一思想の観点から言えば、ウィラーの言う惑星意識を宇宙意識に拡大して考えればよいのである。ユングの言う「集団的無意識から来るメッセージ」、ウィラーの言う「惑星心場から来る概念の波」は、神から来る啓示及び霊界からのインスピレーションに相当するものと言えよう。

 ホワイトヘッドはプロセス神学の中で、創造する神を「永遠の形相の貯蔵庫(情報場)」または「宇宙のイデアの貯蔵庫」としてとらえている。ホワイトヘッドの言う「宇宙のイデアの貯蔵庫」はプラトンの言うイデア界の現代版であろう。プラトンの「イデア説」、ホワイトヘッドの「宇宙のイデアの貯蔵庫」も、神から、あるいは霊界からわれわれに与えられる原型があることを示しているのである。


*22 アントニオ・ダマシオ、田中三彦訳『生存する脳』講談社、2000年、32頁。
*23 同上、31頁。
*24 同上、196頁。
*25 サンドラ・ブレイクスリー「三つ子の魂百までの真実」、ニコラス・ウエイド編、『心や意識は脳のどこにあるのか』木挽裕美訳、翔泳社、1999年、218頁。
*26 アントニオ・ダマシオ『生存する脳』178頁。
*27 アーナ・ウィラー、野中浩一訳『惑星意識』日本教文社、1998年、282頁より引用。
*28 同上、286頁。
*29 同上、290頁。

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 次回は、「認識はいかになされるか④」をお届けします。


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